嵐を呼ぶ再会

そんな九月のとある一日の営業も終了し夕食を食べ終えた魔鈴は、自宅のリビングで寛ぎつつ料理本を開いて秋の新作メニュー考えていた

新作メニューやメニューの入れ替えは飲食店でよく行われることだが、毎回考えるのも楽ではない

特に魔鈴の売りは魔法料理であり、独自のアレンジをするため一苦労なのである


「秋の新作メニューは何がいいでしょうね……」

「肉がいいでござる!」

独り言のような魔鈴の呟きに考える時間すらないまま本能で肉がいいと答えるのはシロだが、魔鈴はちょっと困ったような表情を浮かべる

確かに肉は人気だし新作メニューに入れるが、魔鈴が考えてるのは季節感を感じる物であり肉ではない


「秋はキノコとか栗とか柿とかじゃないか? 肉は年中食えるだろう」

「肉は秋が一番美味しいでござるよ。 獲物も冬眠に入る故、丸々太って最高でござる」

シロの発言に対して横島は珍しくまともなツッコミを入れるが、シロの考えはナナメ上を行っていた

どうやら今だに人間社会をイマイチ理解してない部分があるらしい


「シロちゃん、街で売ってるお肉は人間が育てた物なのよ。 人狼のように狩りも一部ではしてるけど、ほとんど流通してないの」

「そうなんでござるか!?」

肉=狩りの方程式のシロに魔鈴は優しく現状を教えるが、シロは信じられないと言わんばかりに驚いている


「あんた、この前一緒にテレビで牧場の特集みて美味しそうだって騒いでたじゃない。 あれがそうなのよ」

「おおー、あれがそうだったんでござるか!!」

そんなシロだが実は牧場の特集なんかはテレビの番組で見たことがあった

しかしシロは小難しい中身よりは、たくさんの牛を見て美味しそうだとしか感じてなかったらしい


「日本に野良牛は居ないと思うが……」

「深く考える習慣がないのでしょうね。 まだ子供ですし、人狼の価値観で解釈しても不思議ではないですから」

根本的に日本に野良牛など存在しないと思う横島だったが、人狼はそれほど深く考える種族ではないし、ましてシロは見た目よりもずっと幼いのだ

魔鈴は根本的に人間とは違う環境で生きて来たから仕方ないとは思うが、多少常識を教えていく必要性を感じている


「もうちょっと涼しくなったら牧場でも連れてくか?」

シロも最近成長して来たと感じていた横島だが、根本的な常識がまだないことに苦笑いを浮かべてしまう

人と妖怪の違いは理解してるつもりだったが、その違いはまだまだ複雑なのだから


「その前に牧場の仕組みを教えないと行った瞬間に狩りを始めるんじゃない?」

「まさかそれは……」

冗談混じりにシロは放っておけば牧場で狩りを始めるのではと言うタマモに、横島はまさかそれはないだろうと思うが即座に否定は出来なかった


(知識がアンバランスなんですよね。 美神さんも必要最低限の教育しかしなかったようですし……)

シロに関しては人間社会の知識があまりない



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