過去と現在が交差する時

一方涙が枯れるほど泣き続けた魔鈴だったが、日が暮れる頃には落ち着きを取り戻していた

心にポッカリと穴が空いたような喪失感はあるが、出会えた幸せや両親が残した想いは十分過ぎるほど心に残っている

そんな中で感情を抑えようとしている横島とタマモや心配そうに見つめるシロの顔を見ると、魔鈴は自分は一人じゃないことを実感していた


「少し出掛けましょうか?」

時間的にはそろそろ夕食なのだが流石に今から作る気が起きない魔鈴は、横島達を外に連れ出していく

特に目的や行き先がある訳ではないが、少し外の風に当たりたいと思っていたのだ

そのまま異界から店を通り裏口から外に出る横島達だったが、裏口のドアを開けるとムッとした熱気が横島達を襲う


「今日は焼肉がいいでござる!」

「あんたって本当に元気よね。 この暑い日にわざわざ暑い焼肉食いたいなんて……」

「肉は元気の源でござる! タマモは肉が足りないから元気がでないんでござる」

外に出るなり今夜の夕食のアピールをするシロにタマモは半ば呆れた表情でツッコムが、シロは肉が足りないと自信を持って言い切る

それはいつものシロとタマモの会話と何一つ変わりない日常の会話なのだが、横島と魔鈴は改めてシロの心の強さを感じてしまう

悲しい時こそ明るく元気を出そうと言わんばかりのシロの前向きな明るさは、魔鈴と横島の心を癒す何よりの薬となる

両親を失う悲しみを理解してるシロだからこそ、率先して明るく振る舞っているのだろうと思うと魔鈴は元気が出る気がしていた



そのまま特にアテもなく街を歩いていく横島達だったが、気が付けば川が見える場所に来ている

日が暮れたとはいえまだ西の空は明るく薄暗い街だったが、川には小さな明かりの灯った灯籠が無数に流れていた


「灯籠流しか…… ガキの頃以来だわ」

都会の川を流れる灯籠に僅かな違和感を感じる横島だったが、それの全てが願いの篭った光だと思うと何か幻想的なモノに見える


「横島さんもタマモちゃんもシロちゃんも、いろいろありがとうね」

流れていく灯籠を見つめ続ける魔鈴は、静かに言葉を紡いでいく

それぞれがそれぞれに魔鈴を想ってくれたお盆だったことに、魔鈴は本当に感謝して幸せだと実感している

人は互いに支えあい生きていくことなど魔鈴は十分理解しているが、魔鈴自身は人に頼らずに生きて来たのだ

当たり前の幸せの大切さをこの日ほど感じたことはなかったかもしれない


「せっかくだから私達も灯籠流しをしましょうか」

無邪気にも見えるような幸せそうな笑顔を見せた魔鈴は、力強く前に一歩一歩と歩き始める

親の愛情と別れの悲しみを経験して今ある幸せを再認識した魔鈴は、今までとは違った感覚が心のどこかに生まれた気がしていた

これから先も苦難はあると思うが、きっとみんなと一緒なら乗り越えられる

そんな気がしていた


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