過去と現在が交差する時

一方同じお盆の最終日、都内のとあるレストランの個室では美神家の人間が揃って食事をしていた

父親と会う事を頑なに拒否していた令子も、一回だけでいいからと言う美智恵の言葉に折れる形で参加している

しかしそこは家族で食事という空気ではなかった

令子は相変わらず公彦には警戒心を剥き出しにして一度も口を開かないし

美智恵は公彦と令子の両方に話しかけ会話を成立させようとするが、公彦も公彦で拒否する令子に積極的に話しかけようともしない個室から重苦しい空気が支配していた


「ちょっと相談があるんだが……、美智恵も令子も日本を離れる気はないか?」

その言葉は突然だった

先程までは美智恵への返事しかしてない公彦が、突然口を開き意味不明なことを口にする

それは無表情で警戒心剥き出しの令子ですら、僅かに表情が変わるほどの驚きの言葉だった


「あなた……?」

「美智恵も令子もいろいろ抱えてるモノや理想はあるだろう。 だが一回リセットして一からやり直してみないか? あまり人が多い場所は無理だが、ヨーロッパ辺りの田舎ならば僕も問題なく暮らせると思う」

淡々と語る公彦の言葉に答える者はいない

それだけ美智恵も令子も公彦の言葉の衝撃が大きかった

今まで公彦が自ら美智恵や令子に何かを求めた事は全くない

まあ公彦自身も好き勝手に海外で研究をしていたのだから当然なのだが、美智恵や令子のやる事に口出しを全くしなかった公彦がそんな事を言うとは二人とも思わなかったのだ


「……私は遠慮するわ。 今の生活が気に入ってるの。 でもママとひのめがそうするなら反対はしないわ」

どれだけ沈黙の時間が過ぎたかは分からないが、先に口を開いたのは令子であり淡々とした表情で拒否する

しかし美智恵とひのめが公彦と暮らすのにはやはり思うところがあるらしい


「令子……」

「私は何も問題ないしやり直す必要なんてないの。 欲しいモノは手に入るし好きなように生きてるわ。 でもひのめがこれから生きていくのは楽じゃない。 美神の名前や強力過ぎる能力が必ず邪魔になるわ。 それならば海外で暮らすのも悪い選択じゃないと思うもの」

公彦の提案を即座に拒否する令子に美智恵は心を痛めるが、そんな令子は自分には家族など必要ないと言わんばかりに自分はやり直す必要がないと言い切る


その上でひのめの将来を考えるならば公彦の提案が悪い選択でないと言い切る辺り、やはり令子にとってひのめは特別らしい

アシュタロス戦の影響で美神の名前がどれだけ重く面倒かをよく理解していた令子は、ひのめには日本は向かないとも感じていたのだ

加えて強力すぎる念力発火能力も問題視していた

令子ですらお札がないと押さえられない発火能力など尋常ではない

その能力は周りやひのめ自身に、いつ牙を向くか分からないのだ

静かな環境で落ち着いて育て上げのに令子が反対するはずがなかった



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