過去と現在が交差する時

「横島君、君はとっても優しいわ。 でも無理だけはしないでね。 貴方の悲願が叶って、いつの日かみんなで笑い話に出来る事を願ってるわ」

タマモとシロに続き横島に語りかける母親は、血が滲みそうなほど握りしめていた手をそっと手に取り言葉を紡いでいく

そんな母親の優しさと温もりに、横島はなかなか言葉が出て来ない


「娘を頼む」

「あの……、俺……」

「その続きは次に会う時まで取っておいてくれ」

母親の言葉の後を次ぐように一言だけ言葉をかけた父親だったが、横島が語ろうとした言葉を止めてしまう

その意味を互いに理解した横島は無言のまま静かに頷き言葉を飲み込む



別れを惜しむように会話を続けていくが時は刻一刻と進み続ける



時が止まって欲しい



そんな不可能な願いを心に抱くが叶うはずもなく別れは訪れてしまう


「また会おうね、めぐみ」

「次に会う時を楽しみにしてるよ」

タイムリミットを迎え両親は冥界に還る為の光に包まれ始める


「お父さん!! お母さん!!」

その瞬間魔鈴は大声をあげて泣いてしまい、両親に縋るように崩れ落ちてしまう


「……私……私……」

爆発した感情は涙と叫び声で現れ魔鈴は想いを伝えようと必死になるが、上手く言葉が出て来ない


「めぐみ、これは別れじゃないわ。 また必ず会えるんですもの」

「私達はお前のことをずっと見てたし、これからもずっと見てる。 ずっと一緒だ」

声が枯れるのではと思うほど泣き叫ぶ魔鈴の姿は、いつもと別人のようである

そんな中でも取り乱すことなく笑顔を続ける両親に、横島達は親の凄さを痛感していた

横島もタマモもシロも、最早涙を止めることが出来なくただ流れていくまま……



「お父さん…… お母さん……、ありがとう」

止まらぬ涙と抑えきれない感情のまま魔鈴は伝えたかった言葉を紡いでいく


「産んでくれてありがとう! ……私……必ず幸せになるから!!」

その言葉に両親は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ、笑ったまま涙を流していた

二人を包む光はそんな間も止まる事なく広がり、光の中に両親は消えていく



『ありがとう』と最後に聞こえた気がした

横島は涙を流したまま魔鈴の肩を優しく抱くが、魔鈴はそんな横島を強く抱きしめ抑えていた感情を解放するようにただただ泣き続ける

その涙が悲しみなのか幸せなのかすら、魔鈴には分からない

ただただ感情のままに止まらぬ涙を流してゆくだけである



この時からなのかもしれない

魔鈴と横島とタマモとシロの絆が変わり始めたのは……

それは生命が最も大切にする絆の一つである家族に近い絆だった

魔鈴の両親がもたらした僅かな奇跡は、横島達に掛け替えのないモノを残していたのかもしれない

やがてそれが新たな伝説の一ページになるのだが……

この時は誰ひとり知るよしがない


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