店の入口で動けないベスパに店内の人々の視線が集まる

小竜姫達はともかく、ワルキューレ達やベスパまで来るとは誰も予想してなかったようだ


静かで重苦しいほどの空気が支配する中、横島はベスパを迎えるために一歩一歩と歩み寄っていく


「久しぶりだな。　元気だったか？」

戸惑い辛そうなベスパの表情に、横島は普通に笑顔を向けた


（どうやら何も聞かされないで来たらしいな…）

横島はワルキューレをチラリと見るが、彼女は当然だと言いたげな笑顔を浮かべている

そんなワルキューレらしいやり方に、横島は苦笑いが出そうなのを押さえていた


「わざわざ呼び出して悪かったな…　お前とはずっと会いたかったんだ。　歓迎するよ」

出来るだけ優しく話して店内に招き入れる横島だが、ベスパはなんと答えていいかわからない

横島が促すまま店内に入るので精一杯であった


（姉さん…）

その時横島の笑顔を見たベスパは、隣に立つ姉の幻影を見てしまう

少し困ったような笑顔を浮かべながら優しく自分を迎えてくれる姉の幻影に、ベスパは涙が出るのを抑えるので精一杯であった


「ベスパちゃん！！　会いたかったでちゅ！」

なんとも言えない空気を和ませたのは、ベスパに飛びついたパピリオである


「……パピリオ、元気だったかい？」

嬉しそうに抱き着くパピリオを見てベスパはようやく言葉を発することが出来た


「わたちは元気でちゅよ！　手紙をなんども送ったじゃないでちゅか！」

何を今更と言いたげに頬を膨らませるパピリオに、ベスパはようやく僅かばかりの笑顔を見せる


「二人共、ゆっくりしてくれ。　ベスパも言いたいことはあるだろうが、後でな…」

横島の目にはうっすらと涙が浮かんでいた

あの短い間の共に過ごした時間を思い出すと、溢れてくる感情を抑えきれない


（ルシオラ…）

この時、ベスパを呼んだ自分の勘が正しかったことを横島は実感していた

自分と同じか、それ以上かもしれないほど苦しんでるだろうベスパに、横島はどうしても会いたかったのだ



一方そんな横島の姿を静かに見守っていた愛子や銀一や小鳩などアシュタロス戦を知らないメンバーは、あまりの重い空気に誰にも事情を聞けないでいた


すぐ近くなのに、まるで別世界のドラマでも見てるほど存在を遠く感じる

彼らはそんな横島の姿を見ているしか出来なかった



それから横島は、ベスパとパピリオが店内の端の席に座ったのを見て、呼んだメンバーを思い出し店内を見回す


（やっぱりおキヌちゃんは来ないか…）

呼んだ中で来てないのはおキヌだけであった

最近はおキヌと話をしてないので何を考えてるかわからないが、横島はおキヌは来ないような気がしていた


（結局おキヌちゃんは美神さんが一番だからな…）

なんだかんだ言いつつ、おキヌは令子のことしか考えてない

それが現在の横島の印象であった


かつての幽霊の時に世話になったことを思い出すと悲しくなる横島だが、今の令子を一番に考えるおキヌは認められない


「横島さん、そろそろ始めますか？」

「そうっすね。　みんなに飲み物配って乾杯しますか」

少し考え込んでいた横島に声をかけて来たのは魔鈴である

横島と魔鈴やタマモやシロが一人一人に飲み物を配り、卒業パーティーが始まろうとしていた