過去と現在が交差する時

「ほら、ちゃんと口を拭いてね」

そのまま賑やかな昼食になった魔鈴達とシロだったが、シロの世話を焼く魔鈴の姿は妹の相手をする姉のようである

元気なシロの笑顔のおかげで、魔鈴も両親も思わず笑みがこぼれるほど楽しい食事だった


「地上は変わるのが早いな……」

「私達がここでデートしてた時は、景色が違ったわね」

食後は散歩を兼ねてかつて両親がよくデートしてた場所に行った魔鈴達とシロだったが、僅かな年月で発展して変わってしまった景色に両親は少し寂しそうだ

過ぎた時間と今もなお止まる事なく進み続ける時の流れに、両親は自分達がすでに命尽きた存在なのだと改めて実感させられてしまう


「帰りましょうか? 今夜はみんなで夕食を作りましょう」

しばし無言だった両親だが、二人はすぐに笑顔に戻り魔鈴とシロを見て帰ろうと言い出した

過去よりも今、そして未来へ……

両親は今を生きる娘に自分達が出来る数少ない事を、必死に探していたのかもしれない



「ただいまでござる」

「おう、おかえりー ってシロお前魔鈴さんと一緒だったのか?」

「偶然会ってご飯を食べて来たでござる」

予想よりも早く帰宅したシロと魔鈴達を迎えた横島だが、彼はまだ勉強をしていたようだ

そんな横島にシロは尻尾をブンブンと振って帰宅した喜びを表すが、これはいつもの事である


「それにしても凄い買って来たわね」

一方タマモはシロと魔鈴が買って来た食材に目を向けていた

魔鈴達は肉や野菜や魚などをかなり大量に買い込んで来たのだ


「せっかくだから今夜はパーティーにしようと思ったの。 めぐみも横島君もよかったら友達とか呼んでね」

発案者はやはり魔鈴の母親らしく、今夜はパッとパーティーをしようといろいろ買い込んで来たらしい

限られた時間で娘に最大限の思い出を作ってやりたいと考えたようである

そのまま魔鈴がタマモとシロと両親とで料理を始める中、横島は魔鈴の両親に言われた通り来てくれそうな友人に連絡していく

当初は魔鈴も友人に連絡をして夕食に誘ったようだが、お盆という事もあり急に来れる友人がいなかったようだ


「後はゆっくり煮込むだけ。 これは私がお母さんに教わったのよ。 めぐみに教えられてよかったわ~」

さて料理を始めた魔鈴達だったが、こちらは母親による料理教室になっていた

元々魔鈴は和食なども作れるが、伝統的な家庭料理はさほどレパートリーがある訳ではない

母親と親の実家の伝統の味の煮物や郷土料理などを母親から直接伝えられていた


「美味しそうでござるな!」

「シロちゃんとタマモちゃんも料理が上手いわね~ 二人もこの料理を覚えてね。 将来結婚する時に役立つわよ」

娘であるめぐみと同じように二人にも料理のコツや手順を伝える母親は、本当に嬉しそうである

それは母親を知らないタマモですら母親の温もりを感じるほど、幸せな時間だった


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