その日魔鈴は両親と出かけ、家には横島とタマモだけが残っていた

特別目的があった訳ではないが、魔鈴の両親が思い出の地に行きたいと言い出したために親子水入らずで出かけている


「そこ間違ってるわよ」

「本当か？　……俺の物覚えの悪さはどうにかならんもんか」

留守番をしていた横島とタマモだったが、横島は地味に英語の勉強をしていた

タマモは暇そうに横島が勉強してる姿を見ているが、どちらかと言えば見ているタマモの方が物覚えがよかったりする

最近まで英語などほとんど解らなかったタマモだが、横島の勉強をのぞき見してるうちに少しずつ覚えてしまったのだ

真面目に勉強してる横島としてはタマモとの頭の出来の違いが際立つだけに落ち込んでしまうが、こればっかりは仕方ないことだった


「別に横島の物覚えが悪いとは思わないけど？　シロや雪之丞よりはいいじゃない」

「あいつらはその分身体能力がずば抜けてるからな。　本当に俺って奴は何やっても中途半端だわ」

物覚えのいいタマモと比べるとアレだが、横島の物覚えも別に悪くはない

シロは精神年齢が幼いのでまた違うが、雪之丞とタイガーは横島よりも更に物覚えが悪く苦労している

タマモとしてはそんな横島の物覚えがそれほど悪いとは感じないが、横島本人は自分の中途半端さに嫌気がさすようだった


「あんた達は何かあるたびにすぐに才能云々言うけど、本当は自分の限界なんて自分じゃ解らないものなのよ。　多少の得意不得意なんて気にするレベルじゃないと思うけど？」

若干弱音というか愚痴っぽい横島に、タマモは全く遠慮なくキツイことを言い放つ


「分かってはいるんだけどな。　ろくに努力もして来なかった俺が、ちょっとやそっと何かしてもすぐに結果が出ないことはさ」

タマモの言葉に横島は分かっていると言いつつ、僅かに苦笑いを浮かべる

今の横島に一番キツイことをそのまま言うのは間違いなくタマモだろう

横島を傷つけずに横島が求める言葉をズバッと言えるのはタマモだけだった

魔鈴も横島が求める言葉を言うが、魔鈴の言葉は優しいのだ

そう言った意味では同じ言葉でもタマモの言葉には、横島の微妙な気持ちのモヤモヤを吹き飛ばすようなパンチがあった


（魔鈴さんの両親の存在が焦りを生んだのかしら？）

タマモには横島に何か焦りのようなモノが見えている

元々横島には目に見えない焦りがあったが、今の横島の焦りはそれとは違う気がしていた

魔鈴の両親の死と現在の家族の形に、横島が何か感じて悩んでることは確かである


「焦ってもいいことなんてないわよ。　自分のペースで今を精一杯生きるしかないもの」

「それもそうだな」

横島の中にある何かを見極めるように語るタマモに、横島は素直に頷いて再び勉強を続けていく

それは分かっていた答えとはいえ、悩む横島にとっては欲しかった答えだったのだろう

タマモもまたそれ以上は聞かないし追求もしないが、悩む横島がある程度落ち着いたのは確かである

久しぶりの横島とタマモの二人の時間はそのままゆっくりと過ぎていくことになる