過去と現在が交差する時

次の日の朝、目を覚ました魔鈴が最初に見たのは父親の笑顔だった


「めぐみ、おはよう」

「おはよう、お父さん。 お母さんは?」

「お前に手料理を食べさせたいと言い出してな。 キッチンに行ってるよ」

娘の寝顔をずっと見ていた父親は本当に幸せそうである

一方魔鈴は姿が見えない母親の事を尋ねるが、その答えに驚いてしまう


「でも、お母さんは……」

幽霊の母親が料理を出来るはずがないと思いつつ父親に促されるままキッチンに向かった魔鈴が見たモノは、料理を作るタマモの姿だった


「タマモちゃん?」

「あら、おはよう。 もうちょっとだから横島君を起こして来て」

後ろ姿を見た魔鈴は少し不思議そうにタマモに話し掛けるが、その口調はタマモのではない


「お母さん……、タマモちゃんに憑依をしたの?」

「完全な憑依じゃないわよ。 私の場合は並の妖怪と違って肉体がないの。 だから一時的にこの体を貸してるだけよ」

驚き問い掛ける魔鈴に今度答えたのはタマモである

前世で仙術を極めた金毛白面九尾は、並の妖怪よりも遥かに神魔に近い存在らしい

体そのものを貸す憑依は不可能だが、一時的に受け入れる事は可能らしかった


「久しぶりだから美味く出来るか分からないけど、朝ごはんを作ってあげたかったの」

人懐っこい笑顔を浮かべて料理するタマモの姿に母親の姿をダブらせた魔鈴は、とても新鮮で不思議な感じを受ける

姿はタマモそのものなのだが、立ち振る舞いや表情は母親なのだ

それは不思議としか言いようがない光景である



「いただきます」

その日の朝食は普通の和風な朝食だったが、どこか懐かしさを感じるようだった

母親が作ってくれた朝食を普通に食べれる朝に、魔鈴は言葉に出来ない幸せを感じてしまう


「これ美味いっすねー」

「ありがと。 私も自分のお母さんから教わったのよ」

朝から食欲旺盛でガツガツと朝食を食べる横島に、魔鈴の母親は満足そうである

特別変わったおかずがある訳ではないが、その微妙な味付けは家に伝わる伝統なのかもしれない

加えて一晩を過ぎた事により横島の緊張感が和らいだ結果、魔鈴宅ではいつもの雰囲気に戻りつつあった


そのまま横島と魔鈴達は普通に日常的な会話をしていくが、話は今日の店の営業をどうするかになる


「二人が居る間は休んだら?」

「そうだな。 俺もそれがいいと思うな」

本来ならば今日から営業を再開しようと考えていた魔鈴だったが、タマモと横島はお盆の期間中は休むべきだと言う

魔鈴としては少し前に旅行で休んだだけに、お盆は出来るだけ営業するつもりだったのだが……


「そうですね。 お休みにしましょう」

しばらく悩んだ魔鈴だったが、やはり両親との時間を大切にしたいという気持ちが勝っていた

仕事への責任感から葛藤もあったが、両親との時間と比べると両親が大切なのは当然のことである



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