それぞれの想い

一方唐巣やエミやカオスなどアシュタロス戦を知る者達は、魔鈴がパピリオと握手を交わすのを遠くから静かに見つめていた

そしてその微妙な空気に、何も知らない銀一や小鳩や愛子は不思議そうに見ている

そんな静まり返った店内に響いたのは、新たな来客の知らせであった



「横島さん、お久しぶりです。」

「お前は相変わらずのようだな横島。 私達を人間界に呼び出すなんていい度胸してる」

人間に化けたジークとワルキューレは、横島の顔を見て笑顔になっていた

ワルキューレは多少言葉がキツい気もするが、彼女の性格から言えばそんなものだろう

ただ表情は柔らかいものであり、照れ隠しにも見えなくないのが面白い


「悪いな~ わざわざ魔界から呼び出してさ。 小竜姫様達には妙神山に行けば会えるけど、お前らに会えないからさ~」

ワルキューレの言葉に少し苦笑いが混じった笑みを浮かべる横島も、ワルキューレ達に会えて嬉しそうだ


「本来は私達のような軍の魔族が人間界に簡単に来たらマズイのだ。 まあ、私達を呼ぶような物好きはお前くらいだがな…」

横島をからかうような笑顔を見せるワルキューレだが、後ろにいる人物がなかなか店内に入ってこないので入るように視線を向けた



ここで少し時は遡り、ワルキューレ達が魔界を出発する頃に遡る


(人間界に行くのは久しぶりだね…)

ベスパは人間に化けて、服も人間用の服に着替えながらため息をはく


人間界には行きたくない

それが彼女の本心であった


(姉さん…)

かつて、逆天号の修復の為に姿を隠してアジトに向かった時と同じ服を着たベスパは、あの戦いを思い出してしまう


(アイツはどうしてるのかな… 私を恨んでるだろうね)

姉と一緒に思い出すのは、姉が愛して全てを賭けた人間

あの日以来、決して忘れることの無い二人である


「行くぞ」

ワルキューレとジークは、言葉少なくベスパを連れて人間界へ向かった


今回の件、ベスパは任務とは聞いていたが内容は知らない

基本的にベスパはいつも任務の内容などは聞かないのだ


そんなベスパがワルキューレに連れて行かれた場所は、東京であった

遠くに赤い鉄塔が見えた時、ベスパは思わず目を伏せてしまう


(東京に来ただけでこうなるとはな。 あいつとの再開でどうなることやら…)

珍しく人前で感情を表すベスパを、ワルキューレは静かに見つめている


(まあ、心配は要らんだろうな。 横島だし…)

横島と再開したベスパを心配するワルキューレだが、どうせ自分の心配は無用になると確信していた



そうして三人は魔鈴の店を訪れたのである

その時、先に店内に入るワルキューレとジークの向こうに、ベスパは最も会ってはいけないと思っていた人物を見てしまう


(横島…)

横島を見た途端、ルシオラを狙った霊波砲が横島に直撃する瞬間がフラッシュバックしてくる

魂の底からくる震えを必死に抑えながら、ベスパはその場に立ち尽くしていた


体も思考も一切動かなくて、まるで自分の体では無いようであった



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