その日の夜、横島は魔鈴宅にある自室のベットに座って異界の空を見上げていた

そこは春にアパートから引っ越しをした際に、空室だった部屋を自室として使っていいと言われ荷物を運び込んだ部屋である

まあ実際には部屋に荷物を運び込んだだけで全く使ってない部屋だったのだが、魔鈴と両親の水入らずの夜を邪魔しないようにと今夜は別々に寝ることにしたらしい

魔鈴の母親には遠慮しなくていいからいつも通りでいいと笑顔で言われて戸惑った横島と魔鈴だったが、今夜は家族水入らずで居て欲しいと横島が自室に来ていたのだ


「夜に一人で部屋に寝るなんていつ以来だろ？　なんか落ち着かんな」

静まり返った自室の空気に横島はどこか落ち着かないモノを感じていた

つい数ヶ月前までは夜に一人だった事は当然だったのにも関わらず、今の自分は違和感を感じる現実に横島は魔鈴に甘えているのだと実感してしまう


「少し、いいかい？」

そんな横島の部屋に突然やって来たのは魔鈴の父親だった


「あっ、はい」

「そんなに緊張しないでくれ。　私は君と話がしたかっただけなんだ」

突然父親が部屋に来た事で緊張感高まり固まる横島に、魔鈴の父親は苦笑いを浮かべて楽にして欲しいと告げる


「あの……、魔鈴さんと一緒に居なくっていいんっすか？」

「ああ、女同士で話す時間も必要かと思ってね」

どうしても緊張感漂う空気の中、最初に口を開いたのは横島だった

少ない時間で何故自分の元に来たのか不思議に感じた横島がその理由を尋ねるが、その答えは父親として夫としての優しさに包まれていた


「娘を残して死んでしまった私が言える事じゃないかもしれないが……、娘をどうかお願いします」

緊張が抜けない横島に魔鈴の父親は優しい笑みを浮かべたまま、深く頭を下げて魔鈴の事を頼むと告げる

父親とはいえ見た目は死んだ年のままなため若々しい魔鈴の父親だが、その表情は見た目以上に年齢を感じるモノだった


「あの……俺は……」

「君が娘に十分よくしてくれてるのは知ってるんですよ。　向こうでもそれなりに地上の肉親の様子を見る事は出来ますから」

言葉の重みに横島が上手く答えを返せない中、魔鈴の父親は横島と魔鈴の事をずっと見守っていたと告げる

その言葉に横島は何をどう話していいか戸惑ってしまうが、魔鈴の父親はそんな横島を急かす訳でもなく静かに見守っていた


「死んで成仏した今だから感じるのだが、何か決まった形に捕われる必要はないと思う。　君とめぐみは二人で考え生きて行けばいい」

自分と魔鈴の現状をどう説明すればいいか悩み混乱気味の横島に、魔鈴の父親は静かに自分の考えを語っていく

それは死んだ者だからこその価値観であり考えだった

人間社会という狭い世界とは別の世界で娘を見守る父親の価値観は、横島には理解出来ないだろう

そしてその笑顔に隠された苦しみも……


「私も妻も君の事は十分理解してるつもりだ。　君と一緒に居るようになってめぐみは本当に笑顔が増えた。　私達は君に感謝してるんだよ」

苦悩する心を見抜いたような魔鈴の父親の言葉に、横島はただ頷くしか出来なかった