過去と現在が交差する時

後片付けが終わったあとの時間は、静かで穏やかな時間だった

魔鈴の両親が自分達の子供の頃からの思い出話をゆっくり語っていくが、両親の過去の話を聞く魔鈴の表情はまるで幼い子供のようである


(そういえば俺も子供の頃は、親父やお袋の昔話を聞いたっけな)

両親と魔鈴のやり取りはまさしく親子の会話そのものだった

限られた時間を惜しむように親子の絆を深める魔鈴と両親の姿に、横島は言葉に出来ない感情が込み上げてくる

祖先から子孫へ親から子へと受け継がれていく絆の力を、横島は感じずにはいられなかった


「この人と出会った瞬間、私は運命だと感じたの。 あー、この人と結婚するんだって感じたわ」

そのままゆっくりと話していた両親の話は、二人の馴れ初めへと入っていた

嬉しそうに馴れ初めを語る魔鈴の母親は見た目魔鈴に良く似ており、二人並べれば姉妹に見えてしまう

両親共に若くに亡くなった為に見た目が20代後半くらいなのだ

母親は魔鈴と同じく美人だが、魔鈴よりは積極的で明るい女性らしい

幼い頃から少しお転婆だったらしく、父親との付き合いも魔鈴の母親からの熱烈なアタックから始まったようである


「めぐみは見た目は母さん似だけど、性格は俺に似たな」

一方父親は見るからに優しそうな人だった

性格も穏やかで優しいが母親を影からしっかり支えてる強さもある男性である


「そうかしら? 私にも似たと思うんだけど……」

「いや性格は俺に似たよ」

馴れ初め話がいつの間にか魔鈴がどちらに似てるかの話になり、両親の意見が微妙に食い違い始める

そのままどこがどちらに似てるかを語っていく両親の姿は、幼い子供を自慢する両親と同じだった


「ねえ、貴方はどっちに似てると思う?」

「えっ!? えっと……、両方に似てるんじゃないっすか?」

楽しそうな両親の姿に悩んでいた横島の緊張がようやく解けて来た頃、魔鈴の母親は突然横島に対してどっちに似てるかを問い掛けてくる

その予想外のタイミングと質問に横島がテンパって答えると、母親は面白そうにクスクス笑ってしまう


「貴方は優しいわね」

そんな魔鈴の母親だが、彼女はいつの間にか横島に歩み寄り穏やかな笑顔で見つめている

その突然の変化に横島と魔鈴は驚き言葉が出て来ない


「私達の悲しみまで受け止めようとしてくれる貴方の優しさ……、私は好きよ。 でもね、私達の悲しみは貴方が抱え込む事じゃないわ」

穏やかな笑顔を浮かべつつ語る魔鈴の母親の言葉に、横島はなんと答えていいか分からない

確かに横島は魔鈴と両親の事を悩んでいたが、魔鈴の両親にそれを悟られるとは思いもしなかったのだ


「死は決して悲しみだけじゃないわ。 それに私達はこうしてめぐみに会えただけで満足なの。 若い貴方には分からないかもしれないけど、私達はめぐみも貴方も悲しませたくないのよ」

優しく微笑む彼女はまさしく魔鈴の母親なのだと、横島は改めて実感してしまう

性格は多少違うようだが、その本質的なモノは横島が魔鈴に感じたモノと同じだったのだから……



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