過去と現在が交差する時

「いただきます」

その日の夕食は不思議な空気の中での夕食になっていた

テーブルにはタマモと横島が作った夕食が並び、魔鈴の両親の前にも茶碗のご飯がありこちらはお線香も一緒に焚かれている

不思議な光景ではあるが、横島以外は特に不思議と感じてないようだった


「こんな日が来るとは思いませんでした。 お父さんとお母さんと一緒に食卓を囲めるなんて……」

横島・タマモ・両親と視線を向けていった魔鈴は、再び言葉に詰まり涙ぐんでしまう

両親と食卓を囲むという夢を何度となく見て来た魔鈴にとって、この一瞬は何物にも変えられない大切な瞬間だった


(タマモ……、お前……)

この食卓をセッティングしたのはタマモである

両親の分のご飯を盛ったのも墓参りに持って行ったお線香を出して焚いたのも、全てタマモがした事なのだ

横島は第三者的視点になって改めてタマモの凄さを実感してしまう

魔鈴の望む事を当たり前のように気付き実行したその存在感に、横島は圧倒されていた


「ほらほら、泣かないの。 ご飯が冷めるわよ」

「うん……」

再び涙が止まらなくなりそうな魔鈴に母は優しく語りかけて食事は始まっていく

言葉が多くない食事は魔鈴宅にしては珍しい食事風景だったが、この食事が実現した事で魔鈴だけでなく横島やタマモも胸がいっぱいだった



「お前の前世がなんで王様なんかに気に入られたのか、分かった気がしたよ。 魔鈴さんが望む事がよく分かったな」

言葉少なく胸が熱いままの食事が終わると横島はタマモと後片付けをしていたが、割と平然としているタマモに横島はふと疑問に思った事を尋ねる


「別に特別な事はしてないわよ。 ただ私は感じたままに行動してるだけだし」

「そっか……、俺が馬鹿なだけかもな」

顔色一つ変えずに感じたままに動いただけだと言うタマモに、横島はそれ以上追求する事はなかった

それを感じれるのが普通なのかどうか横島には分からないし、何よりタマモが過去の話をあまり好まないのは理解している


(なあ、ルシオラ…… もしお前が普通に死んでたなら、俺は今とは違ってたのかな)

無言のまま後片付けをする横島だったが、ふと死について考えてしまう

《魂は流れやがて生まれ変わる》

生と死はそんな自然の流れの一部なのだ

もしあの時、ルシオラが普通に死んだだけならば……


横島自身、人の死をあまり身近に感じた事がない

幽霊ならばかつておキヌが居たが、彼女は死とは無縁なほど幸せそうだった訳だし

生きる事の意味や死ぬ事の意味、そしてそのどちらでもないルシオラの存在の意味

そんな事を次々に考えていく横島の思考は、迷走して混乱していく


(あかんな。 今は魔鈴さんの事を優先させないと……)

生死の意味を考えていた横島だったが、今重要なのは魔鈴の両親に対して自分はどうすればいいかであった

タマモほど気の利いた事は出来ないかもしれないが、横島は自分が何をしてやれるのか密かに悩む事になる


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