過去と現在が交差する時

同じ頃美神事務所では令子がお盆と無関係にひのめの世話をしていた

父親である公彦が帰国しているが、令子は会う気は全くない

元々公彦とは会った回数を数える方が楽なほど会ってないが、美智恵が生きてた事を知ってからは余計に会いたくなくなっている

仮に父親を好きか嫌いかと聞かれても、好き嫌いがあるほど知らないと言うのが正しいのだろう

アシュタロス戦後に美智恵が生きていた事実で喜んだのは事実だが、しかし令子と両親との間には言葉に出来ない溝が出来てしまい一向に埋まらなかった

令子自身は特別意識している訳ではないが、自分だけに隠されて騙されていたという現実が心の奥底に残っている

幼い頃より父親を求めシグナルを発した事は幾度となくあった

しかし令子の想いに公彦が答えた事は一度もない

かつて美智恵が亡くなった時やその後も、公彦は令子に手を差し延べる事はなかった

強く生きて欲しいと言う美智恵の願いからの公彦の行動かもしれないが、令子にとっては関係ないし父親を実感した事など一度もない

その上で実は美智恵は生きていて隠れて幸せに暮らしていたと考えた時、令子は本当に複雑だった

母親の幸せを喜ぶ半面、自分だけのけ者にされた事実は変わらないのだから

今更家族だの父親だの言われても令子にはもう遅いとしか感じないし、そもそも令子は公彦を父親と認めてない

それどころか令子には必要のない人間だという印象しかなかった


「全く……、私はベビーシッターじゃないっつうの」

年の離れた妹に罪はないし嫌いではない令子だが、美智恵の都合次第で便利に使われてる現状は正直いい気持ちはしてない

ひのめの相手をするのは好きなのだが、当然のように預けていく美智恵には不満を抱えている

それに幼いひのめの将来を考えると、今だに別々に生活する両親には苛立ちも感じてしまうのだ


美智恵は今も家族としての絆を取り戻そうと努力し公彦も願っているが、令子は最早両親との現在以上の関係を全く望んでなかった

仮に現在の令子が幸せだったら、令子と両親の関係は変わったかもしれない

そう……失われた溝を埋めるべく存在が今も令子の元に居たならば、歴史は違ったのだろう


結局関係に多少溝が出来ても令子が美智恵と今でも親子であり続けていれるのは、やはり過去一緒に過ごした時と絆があるからである

しかし元々一緒に過ごした時も無ければ絆もない公彦とは、どうしようもないほど遠い存在のままなのだった

ある意味令子のアシュタロス戦も横島同様に終わってないのかもしれない

失った時やモノの多さは令子もまた多かったのだから



この日令子は事務所の留守電に依頼や相談が入るのを無視したままで、ひのめと二人っきりのお盆の一日を過ごしていく

妹には自分と同じ人生は味合わせたくない

自分は無理だがせめてひのめは両親と幸せになって欲しい

心がバラバラに離れた美神家の中で、ただ一人ひのめだけが微かに家族を繋ぐ絆のカケラとして存在していた


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