過去と現在が交差する時

「希望か…… 特別何かあった訳ではないが、若い人達には私も希望を見せられてるよ。 いろいろあるがそれが私の幸せなのかもしれない」

少し考えながらも優しく微笑む唐巣に、公彦は久しぶりに心がやすらぐ気持ちだった


「彼が横島君ですか……」

そんな公彦の視線は飾られた一枚の写真に向いている

若い頃の自分達の写真の隣に並ぶ新しい写真の真ん中に写る横島に、公彦は言葉に出来ない気持ちを感じてしまう


「ああ、そうだよ。 少し前に旅行に誘われて行った時の写真だ」

「出来る事ならば、彼にも会いたかったんだがな」

「あなた!?」

写真を見ながら突然横島に会いたかったと告げる公彦に、美智恵は驚きの声をあげる

公彦は間接的だがアシュタロス戦の真実やその後の横島の行動を知っている

無論公彦が知るのは美智恵からの話でだが、公彦はいつか横島に会いたいとずっと考えていたのだ


「僕が彼に会う資格がないのは承知しているよ。 ただの願望だ」

驚く唐巣と美智恵に自分にはその資格がないと告げる公彦だったが、その考え方とやり方は令子の時と変わらない

人より見えてしまうが故に、彼は何も行動出来ないのだから……


「横島君ならば、公彦君ともいい友人になれたと思うのだがね。 それに私の若い頃に彼くらいの器があれば……」

公彦の言葉に唐巣は、申し訳なさそうな表情で静かに呟く

かつて横島と公彦を会わせてみたいと、唐巣自身も考えた事があった

こんな状況にさえならなければ、いずれ会うだろうと楽しみにしていた部分もある

そして……、かつての自分が横島のように公彦に接する事が出来れてれば、公彦はもう少し人間らしく生きていたのかと思うと申し訳なくすら思ってしまう


「気にしないで下さい。 全ては運命だったのでしょう。 私は妻と出会えたこの能力を得た事を後悔はしてません。 ただ娘や彼には謝罪してもしきれない罪かもしれませんが……」

美智恵と出会えて幸せだと語る公彦だが、同時に令子や横島には怨まれても仕方ないと考えている

それは人の全てが見える故に達観してるとも言えるが、唐巣は公彦がそれでもなお希望を持って行動出来ない苦しさを感じずにはいられなかった


結局唐巣が公彦が横島に会う事を勧める事は、最後まで無いまま話は終わる

公彦と令子の関係や横島と令子の関係を考えると、唐巣は横島と公彦は会わない方がいいだろうと考えていたのだ

両者にとってそれは決してプラスに働かない事を唐巣はよく理解していた


(公彦君と美智恵君は幸せなのかもしれないが、公彦君の妻には必ずしも美智恵君は相応しく無かったのかもしれない)

二人が帰った後、唐巣は決して公彦の前では考える事すら出来なかった事を考え始める

二人の結婚を否定する訳ではないが、親としては家族関係すら築けなかった両者共に問題なのだ

恋人ならよかったのだろうが、結婚して家庭を持つにはあまりに問題が多すぎたのだろうとも思う

家族とは支え合うものだと唐巣は思うのだが、美神家は家族として支え合う以前に形にすらなってない

せめて両者がもう少し歩み寄れば、令子は現状のようにはならなかったのだろうと思うと唐巣に複雑な気持ちは消えなかった


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