過去と現在が交差する時

その日美智恵は所用があり唐巣の教会を尋ねようとしていた

少し前に唐巣がGS協会幹部に就任して以来、美智恵はオカルトGメンとGS協会の関係を少しでも改善しようと唐巣と協議を始めていたのである


「こんなものかしらね」

唐巣の協会を訪れる前にスーパーに立ち寄り、食材をいくつか買い込んだ美智恵は僅かにため息をはく

唐巣のGS協会幹部就任は美智恵にとっては久しぶりの吉報だったのだ

様々な利害が絡むオカルト業界において、最も信頼が厚いのが唐巣なのだから

六道家の一派である事に変わりはないが、時には六道家と争っても己の意志を通す唐巣には業界の多くの信頼が寄せられている

そんな唐巣に対してGS協会や美智恵などオカルト業界の主要人物達が、現在一番懸念しているのは健康状態だった

空腹で倒れる事が有名な唐巣の健康状態は以前から心配の声は上がっていたのだが、幹部就任によりその期待値が上がると心配する人が比例して増えていたのだ

待望論までありせっかく幹部就任した唐巣が、再び倒れるのではと多くの人が不安に感じていた

結果的に唐巣の元には差し入れの名の元に、食材やら商品券などの現物が多く届く事となっている


(神父ももう少し自分の立場を理解してくれないかしらね)

中途半端な善人ならば誰もここまで心配はしないのだが、様々な問題を抱えるオカルト業界において唐巣はなくてはならない存在だった

美智恵にとっても唐巣は数少ない理解者であり、唐巣の存在が無くなればGS協会とオカルトGメンの協力など吹き飛んでしまうほどの重要な人物なのだ

確かに弱者支援は大切だが、唐巣にはもっと大局を見て欲しいと美智恵は願わずにはいられなかった



「いや~、いつも差し入れ済まないね。 おかげで助かってるよ」

教会を訪れた美智恵を笑顔で出迎える唐巣の顔色は良好だ

美智恵はホッと一息をつき部屋を見渡すが、以前よりは食事に困ってない様子が明らかである


「正直またすぐに無理をするのかと思ってましたよ」

唐巣の幹部就任には喜んだが、結局また何かしらの無理をして倒れるだろうと美智恵は考えていたのである

今のところ無理をしないで続けている事に、美智恵は驚きを感じていた


「会う人みんなにそう言われるよ。 私は無理をしたつもりはないのだがね」

若干苦笑いを浮かべて美智恵に麦茶を出す唐巣は、これが何度目かも忘れたほど同じような心配をされていた事に複雑な気持ちを抱えてしまう


「何かを変えたつもりはないが……、年をとったのは自覚したよ」

ふと昔を思い出した唐巣の視線の先には二枚の写真が飾られていた

一枚はかつて美智恵と公彦と唐巣とで撮った写真であり、もう一枚は先日の旅行でみんなで撮った水着写真である

色あせたかつての写真と新しい写真は時の流れを感じずにはいられないが、唐巣にとってはそれ以上に感慨深いものがあるのだから


(あの写真は……)

唐巣の視線から見知らぬ写真に目を向けた美智恵は、その写真をみて愕然としてしまう

メンバーや人数ではない

その写真に写る人々の笑顔の表情にである

種族も年齢も男女も関係なく楽しげなその写真は、この世界では有り得るはずのないモノなのだから……

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