過去と現在が交差する時

旅行後の横島達は通常の生活に戻っていた

8月の暑い最中での仕事は楽ではないが、店では厨房もフロアも冷房が効いているため快適である


「暑いな~」

ただし出前を担当してる横島は大変だった

気温差が激しい室内と外を一日に何回も出たり入ったりするのは決して楽ではない

まあそれでも美神事務所時代の仕事に比べれば天国ではあるのだが……


「大丈夫ですか? 少し休んで下さい」

美神事務所時代は炎天下で何時間も囮なんかをさせられた横島にとって、細かな体調まで気遣かってくれる魔鈴の元での仕事は快適だと言えるほどである

熱射病や脱水症状を気遣いきちんと体調管理してくれる事が大きいだろう

しかも出前に使う魔法のほうきは上空を飛ぶため、都心特有の暑さを半減できている

決して楽な仕事ではないが、まともな扱いがどれだけ有り難いかシミジミ実感していた


「今月は出前が多いわ。 暑さでみんな外に出たくないのね」

魔鈴が横島の体調を気遣かっている傍ではタマモが出前の注文割合を確認するが、やはり気温の上昇と共に出前が増えている

天候や気温などで出前の注文数が変わるが、暑い日が多い夏場は比較的出前が多い季節のようだ



同じ頃美神事務所には冥子が訪れて、先日横島が撮った写真を持参して旅行に行った話をしていた


「修学旅行みたいで楽しかったわ~」

久しぶりに遊びに来た冥子が楽しげに横島達との旅行の話をする事にも、令子はいつも通り聞いている

現状の横島と令子の関係を知る者は正直冥子の神経を疑いたくなるだろうが、冥子には全く悪気などなかった


「令子ちゃんも横島君と仲直りして、来ればよかったと思うわ~」

その言葉には流石の令子も表情が凍りつくのを隠せない


「冥子、貴女は何も知らないのよ」

「私は知ってるわよ~  横島君が令子ちゃんに怒った事も魔鈴ちゃんに聞いたもの~ でもね令子ちゃん~、私は仲直りして欲しいって思うわ~」

冥子は何も知らないだろうと思った令子はちょっと不愉快そうになるが、冥子はすべて知った上で横島と令子の和解を望んでいた

そんな事実に令子は固まり言葉が出て来ない


「私は~、令子ちゃんも横島君も大切なお友達だもの~」

無邪気な笑顔を見せる冥子に、令子は返す言葉が浮かばないまま見つめるしか出来なかった

自分の事を面と向かって友達だと言ってくれる人間がどれほど少ないかは、令子も自覚している

そして自分にはない人望が横島にある事も、もちろん理解しているのだ

横島が令子を嫌ってるのを理解しても両方と友達だと言い切る冥子の無邪気な優しさが、令子にはとても眩しく感じてしまう


「今は難しくても~、いつか仲直りして欲しいわ~」

絶縁状態の現状で横島と令子の和解を本気で望んでるのは、冥子一人なのかもしれない

それでいて横島と令子の両方から受け入れられてるのも冥子の才能なのだろう

令子自身は横島との和解など有り得ないと理解しているが、冥子の言葉が嬉しく感じるのも事実だった


「冥子、変わったわね」

「みんな頑張ってるんですもの~ 冥子も頑張ってるのよ~」

冥子が何をどう頑張ってるか令子には分からないが、胸を張り輝くように明るい表情の冥子が印象的だった


1/36ページ
スキ