サマーバケーション~2~

一方妙神山に帰った小竜姫は、神界に戻る天竜を見送ろうとしていた


「そういえば殿下、横島さんに褒美を与えませんでしたね」

事前に褒美を与えると公言していた天竜が横島に何も与えずに別れたことが、小竜姫は少し不思議だったらしい


「あの場でそのような話を言えるはずがなかろう。 それに横島も望んでなかったゆえにな」

小竜姫の問い掛けに天竜は僅かに複雑そうな表情を浮かべるが、結果的に言えば褒美を与えるタイミングがなかったのである

流石にパピリオとベスパの前でアシュタロス討伐の褒美を与えるなど、いかに子供の天竜でも言えるはずがなかった

そのまま褒美の話をする前に横島が褒美を望んんでないことを理解したため、結局天竜は何も与えずに別れたらしい

まあ天竜としてはデジャヴーランドの二人になった時の返答次第では、褒美を与えることを考えていたようであるが……


「横島達には楽しかったと伝えてくれ。 余は満足であった」

最後に天竜は笑顔を残して神界に帰って行った

そんな天竜を見送った小竜姫は、老師が何故天竜をこの旅行に参加させたのか理由をうっすらと理解する


(神界しか知らぬ殿下にはいい経験になったでしょう。 それに人間や魔族を知ることは、次世代の竜神族を率いる殿下には必要なことなのでしょうね)

天竜は決して無知でも馬鹿でもないが、竜神族の王子として限られた環境で育てられたため世間知らずな面も見られた

老師や竜神王はそんな天竜に、世界を経験させようとしたのだろうと小竜姫は思う

限られたメンバーではあるが魔族・人間 ・妖怪が集う横島の周辺は、世界を知る第一歩には最適なのである

それにこれからの神族は神魔のデタントや人間との関係が難しく、昔のように神族が絶対だと考えてはダメだと小竜姫は考えていたのだ


「まあ私には関係ないことですね」

天竜のことから未来を少し考えていた小竜姫だが、妙神山管理人の自分にはあまり関係ないと頭を切り替える

実は最近小竜姫にはアシュタロス戦の功績で出世話があったが、本人が修行中だという理由で断っていたのだ

まあ修行中なのに嘘はないが、実際には神界の堅苦しい生活に戻りたいと思わなかったのも理由にある

老師ほど自由気ままな生活を望む訳ではないが、小竜姫自身も今の生活が結構気に入っていた

以前のように何十年も一人で孤独に管理するならともかく、最近はパピリオや横島達の存在もあり忙しいくらいなのだから

ちなみにアシュタロス戦当時人界でアシュタロスと戦った神魔には、軒並み出世話が舞い込んでいる

アシュタロスの逮捕に向かった部隊や人界駐留神魔のほとんどが亡くなっており、政治的な意味合いもあり生き残ったメンバーが出世を果していた

横島の仲間ではヒャクメは出世話を断ったが、ワルキューレとジークは出世を果して二階級特進をしている

ヒャクメは調査官なため出世話を断れたが、ワルキューレ達は軍人なために断る事が出来ない環境だったらしい


「明日からまた頑張りますかね」

なかなか妙神山を離れられない小竜姫は、今回の旅行が気晴らしになったらしくすっきりした表情で笑みを浮かべていた


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