サマーバケーション~2~

次の日、夜明けと共に起きたのはシロと魔鈴であった

シロは朝の空気をいっぱいに吸い込み、日課である散歩に走っていく

そんなシロを微笑ましそうに見送った魔鈴は、朝食の支度をするべくキッチンに入る

シャケを焼いて卵焼きとみそ汁を作る傍らで、ソーセージやオムレツを作る魔鈴は和食と洋食の二種類用意してるようだ

まあ朝から二種類も用意しなくていいのは理解してるが、基本的に料理が好きで美味しく食べて欲しいと思う魔鈴としてはついつい作ってしまうようである

その間に続々とみんなが起き出してくるが、小竜姫・ワルキューレ・ジーク・唐巣など早起きしてくるのは日頃から規則正しい生活をしてる者達だった


「おぬしは本当に料理が美味いのう。 余の家来になって……」

「殿下・・・」

みんなが起きた頃を見計らって朝食にするのだが、見慣れぬ洋風な朝食を気に入った天龍は魔鈴を家来にしたいと言いそうになる

しかしそんな天龍の視界の隅では小竜姫がニッコリと微笑み、お仕置きですと言いそうな雰囲気を漂わせていた


「じょ……冗談じゃ! 今度父上にも食べさせてやりたいと思っただけじゃ」

慌てたように否定する天龍にヒャクメと横島はケラケラと笑っているが、魔鈴はうっすらと冷や汗を流す

竜神王に料理を出すなど考えた事もないほど恐れ多い事だが、現状を見ればいつか実現しそうで笑えなかった


「殿下が妙神山にいらした時ならば、いつでも料理を作りに参りますよ。 ただ、お忍びでお願いしますね」

小竜姫を気にしつつもどこか残念そうな天龍に、魔鈴は少し困ったような表情で妙神山に来てくれればいつでも料理を作ると約束する

流石に神界に呼ばれる事はないと思うが、あまり大きな噂や問題になっても困るのでお忍びで妙神山に来るならばいつでも行くとしか言えなかった


「うむ! 大儀である!」

約束がよほど嬉しかったのか扇子を片手に褒美は何がいいかと尋ねる天龍に、魔鈴が丁重に断る姿に小竜姫は微妙に苦笑いを浮かべつつホッとしている

天龍が人界を知るのはいい事だが、魔鈴を家来にする事は困るのだ

横島の周辺の微妙なバランスが壊れかねないだけに、素直に笑えなかったようである



さてそんな一行はこの日電車で移動をしていた

通勤時間が過ぎた電車に乗客は少なく、都内と違いゆっくり走る電車に初体験の天龍や久しぶりのパピリオは嬉しそうだ

電車を降りて訪れたのは、会員制テニスコートや会員制ゴルフ場などを運営する高級リゾートホテルだった


「まるでドラマの中みたい……」

「私もこんなホテル来た事ないです」

愛子と小鳩はロビーに入るなり雰囲気に萎縮してしまう

綺麗に磨きあげた大理石の床や、高い吹き抜けの上に輝いている豪華なシャンデリアに思わず目を奪われていた

まあシロやベスパやパピリオも似たような表情だし、ピートやタイガーや雪之丞は別世界な空間に呑まれている

と言うか平然としているのはエミ・冥子・銀一・ワルキューレ・斉天大聖・カオスくらいだ

前者三人は高級ホテルの利用があるのだろうし、後者三人は何事にも動じないだけだろう


「今日は何するんでちゅか?」

「とりあえず午前中は海水浴にするつもりなんだ。 夏だしやっぱ海だろ?」

パピリオに今日の予定を聞かれた横島は気楽に答えるが、この海水浴には魔鈴の見えない苦労が隠れていた


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