サマーバケーション~2~

「大物なのか馬鹿なのか判断に悩むね。 知らない方が幸せなのはわかるけど……」

自分の立場を理解してない横島にベスパは不安を感じながらも、知らない方がいいことだとも理解していた

アシュタロスを倒した横島には神魔人界の注目が集まる

しかし本人がそれを知っても今の横島では重荷にしかならないのだ


「それで、そこに隠れてる奴は私に用でもあるのかい?」

横島の気配が消えた頃、ベスパは森の中に向かって小さくつぶやく

横島が来る時に感じた気配はもう一つあったのだ


「ううん。 横島が夜中に外に出たから気になって着いてきただけよ」

ベスパの言葉に現れたのはタマモだった

気配を消していたにも関わらず気付かれたことに驚いているが、こればかりは一年以上魔界軍の訓練を積んだベスパに気付かれるのは仕方ないことである


「あんたのような奴が横島の近くに居てよかったよ。 あいつの周りには優し過ぎる奴ばっかりだからね」

ベスパは相変わらず空を見つめたままだが、タマモの声に少し苦笑いを浮かべていた

お人よしで優し過ぎる横島の周りには似たような人が多すぎる事が、ベスパの不安の一つであった

魔鈴もシロも優し過ぎるのだ

それは横島を癒し共に歩みには最適かもしれないが、同時に横島の立場を思えば不安でもあるのだから


「そうね、みんな優しくていい人よ。 私みたいなのでも憎しみを忘れそうになるくらい。 でも私は忘れない。 人に追われ殺されそうになった事を…… それが出来るのは私だけだもの」

極端な話をするとタマモは自分が嫌われ役になってもよかったし、そうなろうと考えていた

優しく甘い横島や魔鈴やシロを、見えない敵から守れるのは自分しか居ないとも思っていたのだ

世界は決して優しくない

そんな真実を誰よりも知るタマモだけに、自分が影となりみんなを守るつもりだったのである


「でもね、実際は守られてるのは私の方なのよ。 魔鈴さんも小竜姫さんもみんな私の想いに気付いてる。 そして貴女も……」

皮肉な結果だとタマモは思う

自分がみんなを守るつもりが、いつの間にか逆に自分が守られてるのだから……


「先の事なんてわからないもんだね。 アシュ様と共に三界を滅ぼそう私が、まさか神族や人間に混じって生きるとは思わなかったよ」

「ええ、私もこんな未来が待ってるとは思わなかったわ。 横島は次にどんな未来を見るのかしらね?」

いつの間にかベスパとタマモはクスクスと笑ってしまっていた

互いの立場や過去を思うと、こんな形で語り合うとは思いもしなかったのだ

人に対しての複雑な気持ちという点では、ある意味似てる二人だったのかもしれない



「確かにあいつは横島に必要だな。 横島の甘さは武器でもあるが弱点でもある。 一人くらいは疑う奴が必要だ」

同じ頃ベスパ達の様子を覗き見していたのは、ワルキューレ・ジーク・小竜姫・ヒャクメの四人だった

こちらはヒャクメの能力を使っている為、バレなかったらしい


「私達も注意を払ってますが、常に側に居る訳ではありませんからね。 万が一を考えるとタマモちゃんは必要でしょう」

横島の甘さを認めつつそれが弱点だと語るワルキューレに小竜姫は同意する

小竜姫やワルキューレはそれぞれで密かに横島に災いが降り懸からないように動いているが、横島の周辺が多少心配だったのは事実だったのだ


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