サマーバケーション~2~

それから楽しい時間が過ぎていきみんなが眠りに着いた頃、別荘を囲む森の一角に一人空を見上げるベスパが居た

森の中にも関わらずそこだけ木が生えてない僅かな空間で、ベスパは寝転び静かに星空を見つめている



「やっぱここに居たのか?」

別荘の方から人が歩いて来る気配にベスパは気付いていたが、何も反応しないままだった

それが横島なのはとっくに気付いて居るし、ベスパは横島が来る気がしていたのだ


「俺はお前に感謝してるよ。 あの日、お前が止めてくれなかったら俺は取り返しのつかない事をしただろうからな」

ベスパの隣に座った横島は、昔を懐かしむようにその場所を見つめていた

そこはかつてベスパとルシオラが戦った場所なのだから


「私は分からない。 あの時、止めた事がよかったのかどうか……」

こんな結果になるならばいっそあの時想いを遂げさせてあげた方がよかったかと、ベスパ自身何度も考えた事がある

卒業パーティーの時に横島と会って未来に希望も見たが、だからと言ってベスパの過去への想いは消えた訳ではない

希望と後悔の入り混じったベスパは、一日たりともあの日を忘れた事はないのだ


「俺さ。 あの日に約束しちまったんだ。 アシュタロスは俺が倒すって…… 馬鹿だよな~、本当に。 俺はアシュタロスを倒したかった訳じゃないのに。 ルシオラを……あいつを…………」

その声が震えていたのにベスパは気付いていたが、どうすればいいか分からなかった


交わされた約束は果たされたが、もしもあの時に違う約束をしてれば違った結果になったのではないだろうか?

横島自身何度も自分に問い掛けた言葉だった


「あの後、姉さんは本当に幸せそうだった。 私には理由が分からなかったけど…… そしてアシュ様が南極にあんた達を案内する役に選んだのは、姉さんだったんだ。 これは偶然じゃない気がする。 アシュ様はきっと姉さんと横島の関係を試したんだと思う」

言葉に詰まり何も言えなくなった横島に変わり、ベスパは横島が去った後の話を始める

アシュタロスにとって案内役は必ず必要だった訳ではない

場所の指定さえすれば不要だと土偶羅は語ったと言うが、それでもアシュタロスはルシオラを案内役に指名したのである

当時ベスパはそこに疑問など感じなかったが、以前横島が話した裏切った時にルシオラを消滅させなかったのはアシュタロスだった可能性があると聞いて、あの案内もまたアシュタロスはルシオラを試したのではと感じていた


「始めてだったんだ。 あんなにまっすぐに俺を見てくれた奴は。 なのにやりたいのやりたくないのって…… 失うなんて考えた事もなかった。 嫌われて愛想尽かされる事はあっても、あんな事になるなんて……」

微かに震えたままの声で語る横島をベスパは決して見ようとはしなかったし、横島もまたベスパを見ない

自分の中にあるあの日への想いをそれぞれに語る横島とベスパ

二人の想いは二人にしか分からないのかもしれない


「今なら分かる気がする。 何故姉さんとアシュ様が横島を撰んだのか」

ルシオラは横島を愛したが、アシュタロスもまた自らの最後の相手に横島を選んだのだろうとベスパは考えている

今日一日横島を見ていたベスパは、アシュタロスが何故横島を最後の相手に選んだのか分かる気がしていた


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