それから時が過ぎ辺りには夜の闇が訪れていた

別荘の照明の明かりとキャンプ用のランプの明かりの中で、一行はそれぞれに好きなように寛いでいる

バーベキューの炭火はまだ赤々と熱を発しているが、すでに本格的な食事は終わりつまみに肉や魚貝を焼いている程度である


「あいどると言うのは大変なのですね」

食事も終わり酒と共に話に花が咲く中で、一番注目を集めていたのはやはり銀一だった

前回の卒業パーティーでは気付かなかったのだが、小竜姫は銀一のドラマを見ていたりする

アイドルは知らなかったようだが、よくテレビに出る人だという認識はあったようだ


「神様もテレビは見るんですね」

エミや愛子達に交じって興味深げに話を聞く小竜姫に、銀一は多少困惑している

拝まなくていいのだろうかとか、どう接していいのだろうかとかよく分からないようだ


「小竜姫で構いませんよ。　普通に話してください」

銀一の困り顔を察した小竜姫は、微妙に苦笑いを浮かべて普通にしてほしいと告げる

最近は横島の影響であまり神族だとか人間だとか気にしなくなって来た小竜姫だが、やはり一般人から見たら神族は遠い存在なんだと実感してしまう


「私は妙神山という日本の山に住んでますので、人間のテレビも見たりしてますよ。　あちらでゲームをしてるのが私の上司の斉天大聖老師様なのですが、老師様は私よりもずっと人間の文化に詳しいですし」

「斉天大聖老師様って……、どっかで聞いた名前ですね」

少し緊張気味の銀一に小竜姫は優しく自分の事を説明するが、銀一は伝説やお伽話の神様の話とはずいぶん違うんだと実感していた

同じく小竜姫の話に耳を傾けていた小鳩は、斉天大聖の名前に聞き覚えがあるが思い出せないようである


「老師様は孫悟空と言う名の方がわかりやすいでしょうね。　西遊記というお話として聞いた事ありませんか？」

老師の正体に首を傾げる銀一と小鳩に、小竜姫はクスクスと笑みを漏らしてわかりやすく説明する


「あっ！？」

二人は見た目ただの老人の老師が歴史上の有名人な事に、唖然として信じられないようだった


「貧ちゃん、知ってたの！？」

「当たり前や、神族であのお方を知らん奴なんかおらへんよ。　天龍童子殿下よりも立場はずっと上や」

小鳩は自分でも知るほどの大物神族の存在にたまらず貧に確認するが、貧は自分からは言えなかったと言う

正体を隠して人間に化けてる以上は、正体を明かしていいのかわからなかったらしい


「あまり気にしなくてもいいですよ。　老師様もあまり露骨な態度は好みませんし、普通に接してください」

「大丈夫よ。　私は前に会ったことあるけど神族らしくない神様だったわ」

あまりの有名な神族に困ったような銀一と小鳩と貧に、愛子は普通の人とあまり変わらないと告げる


「わしの話をしておるようじゃな。　若い頃の話でも聞くか？」

自分の噂をされてる事を聞いていた老師は銀一達のテーブルにやって来て、ニヤリと笑みを浮かべて昔話を始めた

久しぶりに人界に来た老師はかなり機嫌がいいらしく、若い銀一や小鳩達に若い頃の話を楽しそうに語っていく


（まさか本人から西遊記の話を聞くとは思わなかったワケ）

一緒に話を聞いていたエミは、物語になる前の西遊記の真実に微妙に苦笑いを浮かべていた