一方この別荘の意味を知らない者達はベスパとパピリオの会話に興味を抱くが、ベスパの言葉の重さに口を開く事が出来ない

そしてタマモや小竜姫達など意味を知る者は、静かに別荘とベスパ達を見つめるしか出来なかった


「入ろうか」

ベスパがパピリオを連れて別荘に入ると、他の者もようやく中に入っていく

少し重苦しい空気が漂うが、シロや天龍童子が元気を出す事で空気はよくなっていった

天龍童子はどこまで理解していたかは不明だが、シロは事情を知っていたからこそ明るく振る舞っている

横島の件以外にも父の死や犬飼ポチとの戦い経験してるだけに、シロはここ一番では心の強さが目立つようになって来たのかもしれない



それから少し時間が過ぎて午後から夕方に差し掛かる頃、別荘ではそれぞれが自由にくつろいでいた

太陽の日差しが強く暑い別荘だが、海が近いために都内と比べると風は涼しい

風の音やセミの鳴き声に一行は夏のひと時を楽しむ


そんな中で横島と魔鈴は、庭でバーベキューの準備を始めていた

庭は元々雑草だらけだったが横島と魔鈴が綺麗にしただけあって、青々とした若草が生い茂る広い庭になっている

事前に用意していたレジャー用のテーブルや椅子もすでに並べており、気の早い老師やワルキューレはすでにビールを片手に乾杯していた


「おつまみにどうぞ」

バーベキューの準備をしていた魔鈴だが簡単な料理も準備しており、途中の漁港で買って来た魚なども使った前菜をいくつか出していく

流石に本格的なコース料理は無理だが、それでも店に出してもおかしくないレベルの料理なのは当然だろう

加えてパピリオがお土産に持って来たケーキもテーブルには並んでおり、こちらは天龍童子や愛子や小鳩やタマモやシロなどの酒を飲まない者達に好評である


「うむ、美味い！　おぬし見かけに寄らず凄いな！」

「このくらいは当然でちゅよ。　タマモとシロも美味しい料理を作ってまちた」

お手製ハチミツケーキを天龍童子に褒められたパピリオは嬉しそうな笑顔を見せるが、それでもタマモとシロには対抗意識を燃やす

タマモはあまり表立って張り合うつもりはないようだが、シロはパピリオと張り合うこともあり三人は料理やゲームなどで競うことが多かった
　
同年代の友人など居ない三人なだけに、現在の関係が楽しいのは三人共に同じらしい

そんな風にケーキを食べて張り合うパピリオ・タマモ・シロの三人を、天龍童子は少し羨ましそうに見つめていた

竜神族の王子として生きたて来た天龍童子は、高い身分のせいで対等な友達など出来なかったのだ

身分も種族も関係ない三人が羨ましいのは仕方ないのかもしれない


「横島も何気に料理の腕上げてるから、油断してると負けるわよ」

「横島も料理をするのか？」

そんな時に何気なく語ったタマモの言葉に、天龍童子は驚いた様子で聞き返してしまう

まさか横島が料理をするとは、全くイメージがなかったらしい

元々横島は霊能者として神界で有名だし、ＧＳを辞めた件は知っているが、だからと言って料理を勉強しているとは思いもしなかったのだろう


「私達と横島は、魔鈴さんのレストランで見習い料理人件接客係で働いてるのよ。　だから横島も料理を勉強してるわよ」

タマモの説明に天龍童子はポカーンとして聞いていた

仮にもアシュタロスを倒した横島が料理人の修業をしてるとは、神界の常識では思いもしなかったらしい