それぞれの想い

街が夕日にそまる頃、魔鈴の店には横島が帰っていた

魔鈴の特製料理が出来上がった順にテーブルに並べられ、店内には美味しそうな匂いが漂っている


「バイキングにしたんすね~」

一流のホテルと比べても遜色ないような料理がテーブルに並んでおり、横島は少々豪華過ぎるのではと思っていた


「ええ、何人いらっしゃるかわからないのでバイキング形式にしましたよ」

スープの味見をている魔鈴は、充実したような笑顔で横島に話している


「そういえばお袋は?」

「先生の母上は用事があると言って帰ったでござるよ」

「今回世話になった昔の知人に挨拶に行くって言ってたわ」

百合子が居なくて不思議そうな横島にシロとタマモが説明した


「お袋の知人って誰だろうな… 相当の大物だったりして」

「有り得ますね… 美神さんの裏帳簿や隠し資産まで調べてましたからね」

相手を予想して微妙に引き攣った顔の横島に、魔鈴はふと百合子の行動を思い出して答える

あの令子の裏帳簿やら隠し資産を見つけて来たのだ

相当な大物と関わりがあるのは間違いない
 
「お袋そんなことまでしてたのか? まさか美神さんの上を行く存在が自分の母親だったとは…」

あまりの百合子の凄さに横島は複雑な想いを抱く


令子の非常識さは誰よりも理解している

特にお金に関しては恐ろしいほどの執着心を持っているのだ

その令子の裏帳簿や隠し資産まで調べていたとは、横島は予想もしなかった


「おかげで美神美智恵さんも今のところ大人しいようですし、私達は有り難いですけどね」

横島が驚くのも無理は無いと魔鈴は思う

百合子は国を動かす政治家でもなければ、経済を動かす大企業の社長でもなく一般の主婦なのだから



そんな話をしながらも料理は次々に完成してゆく

そして一番始めに来たのはやはり雪之丞であった


「今日は豪華だな~」

お腹が空いているのか、微妙に目を輝かせる雪之丞だが

さしがに盛り付けされた料理を摘む訳にもいかずに、ぐっと堪えてるようだ



雪之丞が来る少し前、魔鈴の店を遠くから見つめる者達が居た

もちろんかおりと魔理である

二人はわざわざ双眼鏡とカメラを片手に、魔鈴の店に来る人物を調べるつもりらしい


「これであの人の交遊関係がわかるはずですわ。 後は、周りから調べて行けば辞めた事情などもわかるはず」

「それはいいけどさ、もうちょっと近付いたらどうだ? 双眼鏡が無きゃ顔も見えないよ」

かなり離れた場所の交差点で魔鈴の店を探る二人だが、魔理はもっと近付きたいらしい


「私もそうしたいんですが…、これ以上近付けば雪之丞に気付かれます。 ここなら比較的人通りの多い交差点だから大丈夫ですが…」

魔理の意見に同意するも、雪之丞の鋭さを知るかおりはこれ以上は危険だと判断していた


「おっ! 噂をすれば… 雪之丞さんが来たぞ!」

双眼鏡で雪之丞を発見する魔理の声に、かおりも同じように双眼鏡で覗き込む


そんな二人は、周りの通行人からはかなり目立っている

かおりは恥ずかしいのか、たまにその辺りをウロウロしてごまかすが

魔理は人目はどうでもいいらしく、気にせず魔鈴の店を見張っている

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