サマーバケーション~2~

そのままバスは都内を抜けて海沿いを走っていく

変わりゆく景色を眺める者や久しぶりの再会に話が弾む者などそれぞれだが、卒業パーティーの当初に比べれば種族の壁が更になくなってる感じだった

バスは中央にテーブルがありテーブルを囲むように座席が配置されてるタイプで、乗れる人数は少ないが少し高級感のあるバスである

運転手は一般人だがベテランを頼んでおり、口止め料を混みでかなりのチップを渡していた

その結果運転手は訳ありな客かと内心ビクビクしてたらしいが、実際は普通の客なので安堵したとか……


そんな車内は相変わらず賑やかで、中でもパピリオ・天竜・シロの三人が特に賑やかな源である

当初から魔鈴達が心配していた天竜童子だが、口調は相変わらずだが態度や雰囲気は好意的であり問題なく溶け込み初めていた

無論魔鈴・タマモ・唐巣などは天竜に気をつけているが、険悪な雰囲気などカケラもない


「殿下、紅茶などいかがですか?」

「うむ、ご苦労。 おまえが噂の横島の婚約者か?」

都内を抜けて少し自然が見えて来た頃、魔鈴は持参したクーラーボックスから飲み物をそれぞれに配るが、天竜童子はそんな魔鈴を興味深そうに見つめ問い掛ける


「婚約者!?」

「ブッ!!」

天竜童子の予想外の言葉に魔鈴の顔はスッと赤くなり、横島は飲み物を吹き出しそうになった


「誰がそんな事言ったんだ?」

「違うのか? 今朝ヒャクメが……」

微妙に照れたような困ったような横島が天竜童子に話の原因を尋ねるが、答えは聞くまでもない


「ちっ、違うのねー 私は横島さんに恋人が出来たってちょっと教えただけなのねー」

横島や小竜姫のまたかと言わんばかりの視線にヒャクメは慌てて説明するが、実はヒャクメも婚約者だとは言ってない

天竜童子がルシオラを失った横島が今どうしてるのかと尋ねた時、ヒャクメは今の横島にはルシオラを含めて受け止めて支えてる女性がいると告げただけだった

神魔族は一夫多妻な事も珍しくないため、天竜童子はルシオラに続き二人目の女性を愛して婚約者にしたと勘違いしただけである

アシュタロス戦の経緯や横島とルシオラの悲恋は、神魔界では最早知らない者が居ないほど有名な話だったので無論天竜童子もある程度知っていたのだ


「正式に婚約した訳ではありませんよ。 でも、私は横島さんと共に生きていくつもりです」

慌てて説明したヒャクメに笑いが起きると、魔鈴は婚約という形は否定したが横島と共に生きていく事ははっきりと告げていた

実はこの辺りはデリケートな問題で、魔鈴としてはルシオラの復活前に結婚は考えてない

それだけルシオラと一緒にスタートラインに立ちたいという気持ちが強いのだ


「うむ……、横島にはもったいないな」

はっきりと言い切る魔鈴の強く優しい美しさは、天竜童子も思わず見惚れるほどだった

そんな気持ちを隠すように横島に話を振るが、横島は照れたような困ったような表情のままである



一方横島だが、魔鈴との結婚については全く考えが纏まってない

ルシオラへの気持ちや復活の問題もあり、簡単に判断出来る問題ではなかった

それに横島としては現状で考える事ややるべき事が多く、将来の事はルシオラの復活が先だと考える魔鈴に甘える形で現状では全く進んでない

付き合って半年だし横島の精神状態なども考慮したら現状では仕方ないだろう


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