サマーバケーション~2~

それから時が過ぎて八月上旬の夏真っ盛りな頃、魔法料理魔鈴は三日間の臨時休業の張り紙が出されていた

この日は、横島がベスパやパピリオを始め友人達を旅行に誘った日なのである


「いや~、朝メシがまだでのう」

この日一番最初に来たのはカオスとマリアだった

どうやら魔鈴に朝ごはんを食べさせて貰おうと、集合時間よりかなり早く来ている


「いつでもいらして下さい。 賄いで良ければ料金など要りませんよ」

オカルト業界の生ける伝説であるカオスが食事に困る姿に、魔鈴は少し不思議そうだった

いくらボケてるとはいえ、カオスの知識や技術は貴重でカオスを抱えたい国やオカルト企業など世界には山ほどあるのだ


(ドクター・カオスの心中を計るのは私では無理ですね)

権力や財力にあまり興味を持たないカオスは、今でもコツコツ研究を続けている

その心中を少し聞いてみたい魔鈴だが、流石にいきなり聞く訳にもいかないため普通に朝食を共にするだけだった



その後は雪之丞・唐巣・ピート・エミ・タイガー・冥子・小鳩・貧・愛子など続々と集まって来る

一応神族が来る事は事前に伝えられており、神族よりは早く来るべきだろうと各々が気を使ったようだった


「私、旅行って初めてなのよねー 学校を渡り歩いた事はあるけど、旅行って言える感じじゃなかったし……」

「私も修学旅行とか行けなかったので、旅行は初めてです。 楽しみにしてましたよ」

机の妖怪の愛子はもちろん旅行が初めてだが、貧乏神の呪いに苦しんでいた小鳩も旅行が初めてだった

愛子の場合は学校を渡り歩いた経験はあるが、基本的に観光なんかしないし夜中に移動する故に夜逃げに近い経験しかない

そんな二人は今回の旅行を特に楽しみにしてたようである



さてここで時間が少し戻って妙神山の朝だが、こちらは朝日と共に小竜姫が起き出していた

いつものようにパピリオを起こそうと部屋に向かうが、すでに起きてるらしく居ない


「毎日このくらい自発的に起きてくれたらいいんですけどね」

パピリオの部屋はすでに綺麗に片付けられており、旅行に持って行く着替えなどが入ったリュックが待ちきれないと言わんばかりのパピリオの気持ちを表していた

小竜姫は日頃からこのくらいやる気が欲しいと苦笑いを浮かべるが、まだ幼いパピリオならば仕方ないといった感じでもある


一方早起きしたパピリオは、すでに台所で料理を始めていた

横島達にお土産としてハチミツ入りのケーキを持って行きたいと、ずっと前から試作して練習して来たのである



その後小竜姫も朝食の支度を始めるが、予定よりだいぶ早く神界から天龍童子とヒャクメがやって来てしまう


「ずいぶんお早い到着ですね」

「昨日ほとんど寝てないみたいなのねー」

予想よりも早い天龍を小竜姫は慌てて出迎えるが、どうやら楽しみで早く目が覚めたらしい

まだ寝ていたヒャクメを叩き起こして、無理矢理に妙神山に来てしまったようだ


「出迎え大儀である。 さあ、ゆくぞ!」

「殿下、お待ち下さい。 約束の時間までまだだいぶあります。 横島さん達はまだ寝てますよ」

ワクワクが抑え切れない様子の天龍はすぐに人界に行こうとするが、当然小竜姫により止められてしまう


「よいではないか」

「ダメと言ったら、ダメです!」

どうしても早く行こうとワガママを言う天龍だが、やはり小竜姫の圧力の前には勝てない

力に目覚めてもその辺りの子供っぽさや、小竜姫との力関係は変わらないようだ
1/23ページ
スキ