サマーバケーション

何事もなく通り過ぎるのを願う横島だが、視線を店内に向けた大樹は横島達に気付いてしまう


「えっと……」

横島達を見て顔色を青くして口をパクパクさせる大樹に、横島は他人のフリをする

それに気付いた大樹も何も言わずに通り過ぎるが、やる気満々だった気持ちに水を差されたのは確かであった


(お義母さんが不器用なのかお義父さんが上手いのか分かりませんが、横島さんもあんな感じの大人になった可能性もあるんでしょうか?)

大樹の姿は、かつて魔鈴が噂で聞いた横島の姿とどこか重なるものがある

もし横島があれほど浮気性だったら自分はどうするのだろうと考えると、微妙な気持ちになるのは仕方ないだろう


(そういえば横島さんへの躾も、強引と言うか暴力的なところがありましたね。 あのやり方はどう考えても効果が薄い気が……)

浮気のたびに折檻する百合子のやり方が必ずしも有効でないことに、何故百合子が気付かないのか魔鈴は少し不思議だった

横島への躾もそうだが、力で押さえ付けてもいい結果に繋がってないのだ



「横島君のお父さんらしいわねー 元気が有り余ってる感じだもんね」

「否定出来ないだけに悔しいな。 以前なら俺も似たようなことしてたからな」

店を出た後、顔色を青くした大樹の表情を思い出しクスクス笑う愛子に、横島はため息をはくしか出来ない

モテるモテないの差はあるが、かつての女好きな感じは似ているという自覚があるようだ


「どうせならモテるとこまで似て欲しかったな~」

「私に不満があればちゃんと言ってくださいね」

ついボソッと呟いてしまった横島に、魔鈴は笑顔で言葉をかける

この時魔鈴には、横島にプレッシャーをかけようなどという気持ちは全くなかった

ただ付き合って以来横島は不満などを言うことがなかったため、少し不安だっただけである


「そんな不満なんて全くないです!!」

魔鈴としては僅かな不安から言った言葉だが、横島はプレッシャーだと感じてしまい慌てて否定した

横島としてはモテないよりはモテる方が過去は幸せだったろうと、つい考えてしまっただけである

魔鈴に対しては不満などないし、こんな事で嫌われたら困る横島としては焦って否定して機嫌を伺うしか出来ない


「横島、もっと堂々としたら? それだと魔鈴さんが横島を押さえ付けてるように見えるわよ」

「えっ!? いや、俺はそんなつもりじゃなくて……」

不必要に怯えるというか下手に出てしまう横島にタマモは呆れたように言葉をかけるが、横島にそんな自覚はないためオロオロするだけだった


(先は長いですね。 お義母さんといい美神さんといい、押さえ付ければいいというものではないのですが……)

最近はいくらか改善して来たのだが、それでも普段の横島はまだかつての押さえ付けられていたままである

魔鈴としては横島に行き過ぎた気の使われ方は、気持ちのいいものではない

対等な関係になっていざという時のように引っ張って欲しいのだが、先は長いと実感してしまう


「帰りましょうか」

諦めたように僅かにため息をはいた魔鈴は、横島に腕を絡ませて帰路につく

横島に自信を付けさせるにはまだまだ先は長い

魔鈴としてはあくまでも横島に変わらず接するしかなかった


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