サマーバケーション

「とりあえず文珠で十分よ。 まあいずれは他の方法が必要でしょうけどね」

タマモも加えて横島達は愛子の自由な行動のために本体の問題を考えていたが、それほど焦ってる訳ではなかった

どうせ文珠は使い道がないのだし、数年くらいの時間をかけて何か方法を探せばいいと考えている


「みんな、ありがとう」

本人の意思とは半ば無関係に話を進める横島達に、愛子は胸が熱くていっぱいだった

愛子はそこまでして貰うのは悪いと思って、自分のことになるとどうしても遠慮してしまうのだ

そんな愛子の性格を理解してる横島やタマモが、勝手に話を進めて考えているのだから愛子は感謝の気持ちで言葉もなかった



その後普通に映画を見ていくが、愛子やタマモやシロにとっては一種のカルチャーショックだったようである

テレビでは見れない迫力に圧倒された三人が居たが、それは当然なのだろう

映画を見終わった横島達はその余韻のままに外食をしようと、魔鈴が気になっていた和食割烹の店に行き少し遅い夕食にしていた

映画の内容や映画館自体の凄さを嬉しそう語る愛子が印象的だったが、そんな時に店に一組の男女が入って来ると横島の表情が固まる


「ここは最近話題の和食割烹だよ、美穂君が和食好きだと聞いたんでね」

店に入って来たのは20代の可愛らしい女性と横島の父大樹だった

紳士的対応なところを見ると、くどき落とすのはこれかららしい


「だれ?」

「横島のお父さん」

横島の表情の変化に気付いた愛子は見知らぬ男女が誰か尋ねるが、タマモの答えに驚き大樹を見つめる


「隣はお母さん……な訳ないか」

恋人と言うよりは上司と部下で、不倫カップル一歩手間の感じの二人に愛子は苦笑いを浮かべて大樹から視線を逸らす


「えーと……、どうします?」

さすがの魔鈴もこのタイミングで大樹と遭遇した事に戸惑いが隠せない

不倫と決め付けるには早いが、大樹の目的は間違いなく彼女の身体だろう

しかしまだ何かしたとの確証がある訳でもないため、責める訳にもいかないのだ


「他人のフリをしよう。 親父のアレは治らんからな。 ある意味おふくろの公認だし……」

微妙な表情の魔鈴やタマモ達に横島は他人のフリをしようと言い、大樹が気付かないように静かに訳を語り始める

大樹の浮気癖は昔からだし、そのほぼ全てが百合子にバレるのだ

その度に百合子は大樹に折檻しては許す繰り返しなため、周りがいちいち反応するのが馬鹿らしくなるのである


(それはまた……)

百合子は浮気を公認してる訳ではないのだろうが、諦め半分で仕方ないと考えてるのだろうと考えると魔鈴は苦笑いしか浮かばない


(お父さんはわざとバレるように浮気してるんじゃないの? 変に隠し事作らないために……)

一方タマモは横島夫妻の関係が朧げだが見えていた

おそらく大樹はわざとバレるように浮気するのが百合子への愛情と気遣いなのだろうし、百合子が許す限り大樹は浮気するのだろうとタマモは思う


(まあ、別に珍しくはないか。 昔は人間もそんな生活だったし)

横島夫妻の夫婦関係がなんとなくわかったタマモだが、それが別に悪いとは思わなかった

昔は人間も一夫多妻だったし、第一本人達が幸せそうなら他人がとやかく言う問題ではない


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