サマーバケーション

数日後、店の営業が終わった横島達四人と雪之丞と愛子の六人は映画館に来ていた


「友達と映画を見に来るのも青春よねー」

銀一の撮影見学の時以来ずっと映画を見に来るのを楽しみにしていた愛子は、ご機嫌な様子で瞳を輝かせている

何が青春で何が青春じゃないのか他人には分からないが、結局自分が楽しむ事は全て青春なのかもしれない


「拙者も映画は初めてでござる!」

そして実は愛子だけではなくタマモとシロも映画を見た事がなく、愛子と同じくらい二人も楽しみにしていた

特にシロは感情が表に出るので、先程から尻尾がブンブンと元気に揺れている


「ちょうど招待券が手に入ったんですよ。 今年のハリウッドの話題作のようです」

魔鈴が招待券を受付に出して映画館に入るのだが、実はこの招待券は店の常連に貰った物だった

まだ子供にも見えるシロがフロアに居るせいか、たまに差し入れなどを貰う事があるのである


「ファンタジー物より、愛子は青春映画がいいんだろうけどな」

「あら、私はこの映画見たかったわよ。 夏休み前にクラスメートと騒いでたもの」

映画は魔法使いの少年が成長していく典型的なファンタジー物であり、結構話題になっているやつだった

横島のイメージでは愛子は一昔前の青春ドラマのような熱い映画が趣味なのかと勝手に思っていたが、意外に愛子は結構流行に敏感なようだ


その愛子は記念にと映画のパンフレットを買い求め、他にも飲み物やポップコーンなどを買った横島達は館内に入り席に座る

ちなみに愛子の本体だが、【小】の文珠により携帯サイズに小型化されているため全く目立たない

これは少し前の商店街の夏祭りの反省を生かして、愛子が自由に外を歩けるように横島と魔鈴が考えたものだった

最近ますます使い道がなくなった文珠が余っていたので、試しに本体だけを小さくしてみたら案外簡単に小さくなったのである

たた、効果が一日くらいしか持たない感じなので常時本体を小さくするのは難しいが、ちょっと外出するくらいならば十分だった


「ねえ、本当に貰っていいの? かなり貴重品なんでしょ?」

映画が始まるのを待つ間、愛子は文珠入りのお守りを持ちながら申し訳なさそうに横島を見る

現在お守りには護身用の三つに本体を小さくする用に二つほど文珠が入っており、好きなだけ使っていいと言われていたのだ


しかし文珠の貴重性を知った愛子は申し訳ない気持ちが消えないでいた


「いいのよ。 確かに貴重なんだけど護身用以外に使い道がなかったんだし。 貴女なら妖怪の能力って事にすれば秘密は守れるしね」

横島の代わりに答えたのはタマモである

奇跡の結晶とも言われる伝説の文珠だが、平和な日常だと使い道がなかった

基本的方針として、人前で使わない・使わなくていい事には使わない・という方針の元では使い道がまるでないのだ

信用出来る身内に護身用で配るのがせいぜいである

そういう意味では秘密を守れて文珠でなければ本体が邪魔になる愛子の使い道は、最近にしては唯一の使い道と言ってもよかった


「本当は常に机の本体を自由にするようにしたいんだがな~」

「なかなか難しいですよ。 タマモちゃんのように変化の術を覚えればいいんでしょうが、あれも難しいですしね」

横島と魔鈴は愛子が本体を自由に大きさを変えたりする方法を考えているが、解決方法が見つかってない

複数文珠で小さいまま固定化するのはおそらく可能だろうが、机の妖怪の机を常に小さいままにしておくのも考えものなのだ

魔鈴もまた魔法で考えていたが、なかなか妖怪の本体をコントロールする魔法などないのが現状だった


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