サマーバケーション

その後も宴は賑やかに続いていき、シロの魔鈴の店で働いた話などで盛り上がっていくことになる


そんな宴が終わったのは、西の山々に夕日が隠れた頃であった

名残惜しいと言わんばかりに西の空が赤く彩る中、横島達四人の姿は村外れの墓地にあった


「父上、母上、ただいまでござる」

両親の墓の前で手を合わせるシロの姿は、本来の年と比べるとかなり大人びて見える

シロは墓石に水と花を備えて静かに祈っていた


(あれからまだ二年も過ぎてないんだよな)

シロと一緒に手を合わせていた横島は、改めてシロの境遇を思い複雑な気持ちになる

幼いままで両親に先立たれたシロの辛さは、自分には分からないかもしれないと思うのだ


(ツライのは俺だけじゃないんだよな)

いつも明るく笑顔のシロも心の奥には悲しみを抱えてる事を改めて実感するが、それでもなお横島はルシオラを過去の事に出来なかった

もしルシオラが普通に死ねば、横島は時間と共に過去の思い出に出来たかもしれない

しかしルシオラは生きてもないし死んでもない状況である

かろうじて消滅を免れた状況であり、このままでは転生すら出来ないのだ

その現実が横島に重くのしかかっている


「お待たせしたでござる!」

シロが大人びた表情をしていたのは僅かな時間だけだった

立ち上がり振り向いた時にはいつもの笑顔に戻っている


「もういいのか?」

「はい、また今度来るでござる」

無邪気な笑顔で答えるシロの頭を、横島がぽんぽんと撫でてその場を後にしていく

その強さと優しさは横島が見ても尊敬してしまうほど素晴らしいものだった



「それじゃ、俺達は帰ります」

「うむ、またいつでも来てくだされ。 身体には気をつけてのう」

すっかり日が暮れた頃、横島達は長老や人狼達に別れを告げていた

長老は泊まる事を進めたが、今回は準備して来なかった事で次回は泊まらせて頂くといい文珠の転移で帰っていく

僅か半日の滞在ではあったが、人狼達の名残惜しそうな表情が印象的だった



「横島さん、何を考えてるんですか?」

「シロと出会った頃を思い出してたんっすよ」

人狼の里から帰った横島達はお腹が満腹だった事から風呂に入って寝室でゆっくりしていたが、横島は何かぼーっとしている

不思議に思った魔鈴が声をかけると、横島はかつてのフェンリル事件とシロとの出会いを魔鈴に語り出していた


「そんな事件もあったんですね……」

横島の語るフェンリル事件に魔鈴は背筋が冷たくなる気がした

古き神々を滅ぼした伝説の魔獣を相手によく生き延びられたと思うのだ

仮に質の悪いコピーだとしても人間が勝てる相手ではない


「シロはあの頃から比べると大人になりましたし、強くなりましたよ。 シロとタマモがこれからどうなるのか楽しみなんです」

横島と雪之丞に次いで成長スピードが速いのはシロだった

横島と雪之丞は妙神山での斉天大聖相手の修行もあったが、シロはそれがないにも関わらず驚異的な成長を続けている

自分達を越すのもそう遠くない未来だと横島や雪之丞は理解していた


「そうですね。 あの子達がどう成長してどんな未来を見るのか楽しみですね」

横島と魔鈴はシロやタマモの将来に不安を感じてはいるが、同時に楽しみにしている事も確かである

妖怪の能力を抜いても二人は優秀だし適応力も高い

このまま平和に成長したらどんな未来を作るのか、楽しみにで仕方ないようである


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