サマーバケーション

「毎日こんなんじゃないと思うわよ。 多分二人を歓迎したから最高のもてなしをしてるのよ」

驚く二人にタマモはこれが人狼のもてなしなのだろうと語るが、そのタマモの前にも大量な料理が並んでいる

人狼と妖狐の確執は元々性格が合わないだけで、思ったほど根深くないのかもしれない


(今回は警戒もされてないのね。 シロもそうだけど人狼って単純なのかしら?)

前回に正体を明かして若干微妙な空気が流れただけに、タマモは自分があまり歓迎されない事も考えていたが今回は全く警戒されてなかった

それどころか横島と魔鈴と同じ扱いで歓迎された事には、タマモですら驚きを感じる

まあ元々人狼と妖怪は性格や生き方が合わないだけで、何かを争っていた訳ではないので個人的に恨みなどはないのだが、それでも大人の人狼の対応は少しタマモの予想と違っていた

まあ金毛白面九尾のタマモは本来普通の妖狐とは別格の存在であり、並の妖狐と一緒にされるとタマモは不快に感じるのだが……


「お前の料理には油揚げ多いな。 人狼って普段から油揚げ食うのかな?」

何気に自分達の前に並んでいく料理を見ていた横島は、ふとタマモの料理に油揚げが多い事に気付く

人間の町から遠いこの隠れ里に油揚げがある事が少し不思議であった


「そう言えばそうね」

「最近はワシらも畑を作ってるでのう。 特に大豆は味噌や醤油の材料として欠かせんから多めに作っておるのじゃ」

不思議そうな横島とタマモの背後から声をかけたのは長老である

人狼達は今も狩りを中心に生活しているが、昔と違い畑も作ってるらしい

特に米や大豆などは酒や調味料を作る為に結構作ってるようだ

流石に塩は人間の町まで降りて買い物に行くが、自作出来る調味料は自作してるとの事である


「人狼族がまさか農耕をしてるとは……」

そんな長老の話に魔鈴は驚きを隠せないでいた

元々人と人狼が対立するきっかけは農耕中心の生活に移った人と、自然と共存し狩りの生活を貫いた人狼の生き方の違いにあるのだから

まさか人狼が僅かながら農耕の生活をしてるとは思いもしなかったようだ


「時の流れと共に我ら人狼族も変わっておる。 自然と共に生きるのは変わらぬが、最低限の農耕は必要なのじゃ。 人の変化ほど激しくはないが、我らも過去ばかり見てる訳ではないのでな」

自然と共に生きる生き方は変えないが、かと言って過去に捕われてばかりではない

人と流れる速さこそ違うが、人狼族もまた世界の一部として生きてる事を魔鈴は改めて実感していた


「昔から一部の者は正体を隠して人間の町で働き、人間の料理も覚えて里に持ち帰っておる。 豆腐や油揚げなどは里でも作れるでな」

驚きの表情の魔鈴に、長老は人狼族の隠された実状を話して聞かせる

基本的に里に篭り人間とは離れた生活を続けてはいるが尻尾を隠す術は昔からあるらしく、術を使える者が僅かに人間の町に出て食べ物や料理技術などを持ち帰ってるようだった

無論人間との接触は最低限に留めているようだが、いつの時代も若者は村の外に出たがり実際に飛び出して行く者も居るという

そんな者達が帰って来た際に様々な食べ物や技術を持ち帰ったのが、外に出始めた始まりらしい

最も最初に外から技術を持ち帰ったのは千年より前の話だと言うが……



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