サマーバケーション

彼の話だといつも頼んでいた店が食中毒を起こして突然営業停止になったらしく、あちこちに電話して弁当を頼んだが数が多く時間も少ないのでいくつかの店で断られたらしい


「うちは大丈夫ですよ。 作りたてですから。 またよかったらお願いします」

食中毒の話題に横島は他人事ではないと感じるが、料理に真剣な魔鈴と妖狐の嗅覚を持つタマモが食中毒を起こす危険性はまず有り得なかった

横島も魔鈴から手洗いや調理器具の洗浄などはかなり厳しく言われてるし、間違っても食中毒など起こらないような賞味期限を設定している


「弁当の配達もしてるのかい?」

「今のところは料理の出前だけなんですよ。 今回は量が多いのでサービスですけど。 うちはレストランですし、弁当は最近始めたのでこれからいろいろ考えますけどね」

弁当を渡し清算待ちの横島は教師と世間話をするが、弁当の配達については明言を避けていた

出前は料理の単価が高いからいいが、弁当だと採算を考えると個別な配達は難しい気がしている

出前要員が基本横島一人なので過剰に出前を増やせない事情もあるのだが



「お疲れさまでした」

その後は順調に店を営業して一日の営業が終わると、魔鈴を始め横島達はホッと一息ついていた

流石に今日は疲れを感じるほど慌ただしかったのだ


「お弁当の大口注文は、一応マニュアルを考えないとダメですね。 基本的に前日の夜八時までにしましょうか。 流石に当日の営業中だと難しい時もありますし……」

正直言えば弁当の大口の注文がこれからも来るのか分からないが、基本的なマニュアルは決めておく必要があると魔鈴は考えていた

仕入れは基本的に当日の朝だが、物によっては前日の夜に仕込む料理もある

今回のような訳ありな注文は仕方ないが、前日に計画が立てられないと魔鈴としてはキツかった


「そうっすね。 あと弁当に付ける帯やナプキンもネーム入りのやつがあればいいっすよ」

注文時間以外にも弁当に付ける帯やナプキンなどに、ネーム入りの物が必要だと横島は考えている

割り箸はネーム入りの物があるが、帯や弁当用のナプキンは市販品を買って付けていたのだ

横島としてはそんな細かいとこが気になるらしい


「ネーム入りですか…… 今度業者に頼んでみますね」

横島の要望に少し考える魔鈴だが、今までの横島のアイデアが意外と当たっているので素直に受け入れることにしていた

魔鈴としてはそこまで必要なのか少し疑問もあるが、無駄にはならないだろうと考えたようだ



この後、魔法料理魔鈴には弁当の大口の注文がぽつぽつと増えることになる

《魔法料理魔鈴・特製弁当》

そんな名前で密かに評判になるのだが、元々競争相手が居ない魔法料理なだけに一定の需要があったのだろう

大口注文に関してもマニュアルを作成しただけで一切宣伝もしなかった魔鈴だったが、今日配達した学校関係者やPTAを中心に除霊と同様に口コミが広がっていく事になる

元々の発案者である横島がどこまで考えていたのかは誰にも分からないが、そのアイデアが当たったのは確かだった

なかなかレストランを利用しない層の客を獲得するという意味では、売り上げ以上の見えない効果をもたらしている

結果的に横島達三人は僅か数ヶ月で自分の居場所をしっかり確保する事になり、魔法料理魔鈴は以前に増して繁盛していく事になる


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