サマーバケーション

そんな六道家は弱者の除霊後の生活支援なども多少行っており、唐巣は今回その支援を活用しようとしていた


「知らなかったですノー」

「ああ」

唐巣の語った六道家の支援制度をタイガーと雪之丞は知らなかったらしい

最もこの支援制度は六道家の私設事業であり、六道家と関係が深い人物しか使えないという問題点もあった

GS協会にも一応支援制度や相談窓口はあるが、元々寄せ集め組織であるGS協会の支援制度はあってないような制度であり役に立たない

だいぶ前にGS協会にも六道家のような手厚い支援制度を導入しようと計画した者もいたが、各GSや霊能の大家などの負担金調整に失敗して頓挫した過去がある

結局はいち早く弱者支援に乗り出した六道家が、一般社会での幅広い認知を背景にオカルト業界でより確固たる権力を得たのだった


「噂ほど悪い人ではないのだよ。 六道さんのおかげで助かった命は実際、私の活動よりも多いしね」

影の権力者として様々な陰口を叩かれる六道家だが、その功績が確かな事は隠しようがない事実である

かつて除霊のために異教の儀式を行って教会を破門される事も厭わなかった唐巣が、何故六道家に協力しているかと言われればそれはより人々を救えるからに他ならない

唐巣も冥菜が善人だとは言わないが、救える命は救いたいと願っているのは同じだった

唐巣と冥菜の違いは、その結果を自分に還元するかしないかだろう

多くの人を救い業界の近代化に取り組んだ六道家ゆえに、オカルト業界で敵無しと言われるほどになっている

権力者としての才能と子供のような無邪気さを併せ持つ六道家代々の当主は、その微妙なバランスで成功を収めていた


「ピート君も含めて君達に私と同じ事をしろとは言わないよ。 ただね、このような弱者も居る事を知っていて欲しい」

唐巣の言葉に雪之丞達は返す言葉がなかった

特に雪之丞とタイガーは、以前エミに言われた覚悟の話を思い出すと簡単に判断が出来ない

人が困ってれば助けたいのは当然あるが、それに人生をかける覚悟があるかと聞かれれば無いのだ



その後女性は六道家系列病院に入院して、一ヶ月後に退院していく事になる

この件から半年後、女性は無事社会復帰して母子家庭ながら幸せになったと言う


そして年末年始やお盆には唐巣の教会にささやかな寄付が届く事になるのだが、唐巣は寄付よりも親子が元気な事を何より喜ぶ事になる




「お待たせして申し訳ありません」

次の日の夜、私服姿の魔鈴が訪れたのは都内の料亭だった

魔鈴を待っていたのは唐巣とエミである


「僕達もさっき来たばかりだから構わないよ」

魔鈴が到着した事で三人は食事を始めるが、会話の内容は昨日の唐巣の除霊についてだった

唐巣が除霊やその時の雪之丞やタイガーの様子を二人に話していく


「そう、それはよかったワケ。 あの子達はもっと世界を知らないとダメだもの。 私達の価値観をそのまま受け継いだらダメなのよ」

唐巣の話に満足そうなのはエミだった

以前は唐巣の除霊や生き方に疑問を投げ掛けたエミだったが、別に否定してる訳ではない

エミと唐巣は考え方がまるで違うが、だからこそエミはタイガーに唐巣の除霊や生き方を直接体験させたかったのだ


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