卒業の意味

「金は気にしなくていいよ。 カオスにもマリアにも世話になったからな」

少し苦笑いを浮かべた横島がタダでいいと告げると、カオスは再び探るように横島を見つめる


「ノー・横島さん。 マリア世話してません」

無言のカオスに変わり少し不思議そうなマリアが答えた


「アハハ~ そんなこと言うなよマリア。 一緒に大気圏ダイブした仲じゃないか」

微妙に変わるマリアの表情に横島は思わず笑ってしまう


「そういえばそんなこともあったのー じゃがワシは本当に何もしとらんぞ?」

横島の様子が何か前と違う気がすると感じるカオスは、それを探るように言葉を投げかける


「あんたにも十分世話になったよ… あんたのおかげであいつは未来に夢を持てた。 一瞬の短い間だったけど、あいつは確かに未来を夢見てた」

少し遠くを見るような横島の表情を、カオスとマリアは無言で見ていた

寂しさや悲しさが溢れ出しそうな表情にも関わらず、希望の消えないその表情が二人の心に強く焼き付くようである


「そうか… まあタダでいいならワシは断る理由など無いな」

疑問が解決したカオスはいつものボケたような表情に戻る


「おう! 魔鈴さんの店だから適当に来てくれよ」

いつの間にか笑顔に戻った横島はそう告げて帰ってゆく


「奴は変わったわい」

「イエス・ドクターカオス…」

「まだ若いのにのう…」

千年を越える時を生きたいカオスにしてみれば、横島はあまりに若く幼い

そんな横島が個人では背負いきれないほどのものを抱えてることに、カオスは複雑な思いであった


そんなことを考えていると、いつの間にかマリアが台所で何かを作り始める


「マリア、夕飯はいらんぞ?」

「ノー・横島さんに持って行く・お土産作ります」

あまり自発的な行動をしないマリアが、自分からお土産に持って行くケーキを作り出したことに、カオスは驚きを持って見ていた


(横島もまた天才なのかもしれんの…)

マリアの変化を見守るカオスの表情は、とても優しく温かいものであった


(マリアの心に変化を与えた人間はかつて一人だけ… 奴もまた天才であったな。 だが横島の変化はワシにも読めん。 もしかしたらお前を越えるかもしれんの… ホームズよ)

カオスは記憶の奥に残る一人の青年を思い出している


千年の長き年月を越えたカオスが、数少ない忘れられない人間

現代まで名前が残る伝説の名探偵として才能を発揮した男を…


もしかしたら横島も自分やホームズのように歴史に名を残すかもしれない

カオスはそんな予感を感じていた



一方カオスのアパートを出た横島は、魔鈴の店に帰る前にある場所に立ち寄っていた


「ルシオラ、俺高校卒業したよ」

まだ夕方でないのが少し残念な横島だったが、それでも青空の景色も悪くない気がしている


「いろいろ変わったけどさ、それでも俺は元気に生きてるよ。 魔鈴さんやタマモやシロが俺を助けてくれてる。 いつかお前にも会わせてやるからな」

かつて巨大なコスモプロセッサーのあった場所を眺めながら、横島は静かに語りかけてゆく

もちろん返ってくる言葉は無いが、きっと笑顔で喜んでくれている

そんな気がしていた



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