サマーバケーション

「こんにちは、お母さんの様子はどうだい? 今日はこの前話した除霊に取り掛かろうと思うが問題はないかい?」

アパートの一室を尋ねた唐巣を迎えたのは小学校高学年くらいの少年だった

ドアを開けた瞬間は険しい表情だった少年だが、唐巣の顔を見るなり僅かに表情が緩んでその瞳には涙が浮かんでいる


「お願いします。 お願いします」

唐巣に深く頭を下げた少年は、雪之丞達にも続けて深く頭を下げていく

その表情といい態度といい、年に似合わぬ苦労をしたのは明らかだろう


唐巣達が部屋に入ると、雪之丞達は部屋自体にお札を用いた霊的結界が張られていることに気付いていた


「この結界は病魔の霊障を封じる結界だよ。 病魔は病人に取り付くとポルターガイスト現象を起こすんだ。 病人の霊力を奪って霊障を起こすから病人はどんどん弱ってしまう。 最終的には死さえありうるのだ。 この除霊の際はポルターガイストなどでケガをしないように気をつけることを忘れないように」

部屋に入るなり除霊についての説明を始める唐巣の言葉を、雪之丞達三人は静かに聞いている

そんな雪之丞達の背後では、家主の少年が不安そうな表情で唐巣達のやりとりを見守っていた

部屋には最低限の物以外は何もなく、いかに生活が苦しいから誰が見てもわかる

そんな現状に雪之丞達は言葉を出すことが出来ない


「それでは除霊に取り掛かるが、事前の注意事項として放出系の能力は使用しないように。 タイガー君の精神感応もね。 これから我々は彼女の体内に幽体離脱をして侵入するのだが、攻撃系の能力は彼女の体にダメージを与えてしまうからね」

唐巣の説明は細部まで細かいものだった

事前に説明して疑問などを解決した上で除霊に挑むのは普通と言えば普通だが、とても令子の師匠とは思えない

最後に質問があるかと尋ねた唐巣に雪之丞は文珠の使用について尋ねるが、これも当然使用禁止である


「では幽体離脱するのだが、自分で出来るかね?」

「いや、俺は無理だ」

「ワッシも無理ですケン」

いよいよ除霊を始めようとするが、雪之丞とタイガーは自分で幽体離脱は出来ないようだ


「それに関しては僕が幽体だけを体から離しますよ。 準備はいいですか?」

バンパイアハーフのピートは、自分で幽体離脱出来る上に他人の幽体を体から引き出すことが可能なようだった

これについては元々吸血鬼の霊体は魔族に近く、人間のように肉体を持つが霊体は神魔より弱く肉体は人間より強いという中間的な種族なのが影響している

それに長く生きたピートはいろいろ細かな技術は持っているようだ


「ああ、頼むぜ」

雪之丞とタイガーが頷いた事で、ピートは二人の幽体を体から離し幽体離脱させていく

続いてピートが幽体離脱したところで、最後に唐巣が少年に静かに待ってるように告げて幽体離脱する

四人が幽体離脱したところで唐巣は四人の霊体の量を調整して病魔に取り付かれた女性の体内に入り込んで行った


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