サマーバケーション

過労気味なのは今も変わらないが、食事をしっかり取るようになった事で体調はいいようだ


「よかったでござる」

唐巣の生活が以前より改善された現状に、シロは喜びの表情を見せている

まだ幼いシロには唐巣の生き方がわからないらしく、食事を取るようになったのが素直に嬉しいようだった


「君達を見ていると、私は自分の限界が見えて年をとったのを実感してしまうよ」

ホッとしたようなタマモと喜ぶシロを嬉しそうに見つめる唐巣は、静かに心にある想い語り出す


「正直私は妖狐と人狼が共に生きるのを、この目で見れるとは思わなかった。 私も妖狐や人狼には何人か知り合いは居るが、共存するなど考えれる感じではないしね」

唐巣は二十年近いGS生活で多くの妖怪に出会ったが、基本的に妖怪は多種族と協力をあまりしないし妖狐と人狼は生き方の違いからまるで合わない存在なのである

そんな妖狐と人狼の若い二人が共に生きる姿は、唐巣に己の限界と年を感じさせるには十分だったのだ


「う~ん……」

「前世も妖狐も人狼もどうでもいいわ。 私はただのタマモなんだし」

改めて妖狐と人狼の確執の事を聞くとシロは悩むが、タマモは淡々と答える


「そうでござるな。 何故今まで仲良くしなかったのか拙者には理解出来ぬでござる」

過去も確執も関係ないというタマモと純粋に理解出来ないシロに、唐巣は穏やかな笑みを浮かべて見つめていた

それがいかに難しく素晴らしいものか唐巣はよく理解しているのだから


「正直言うと、私も長生きしてみたくなった。 君達や横島君がどんな未来を作るのか知りたくてね」

少し遠い眼差しで語る唐巣はふと過去を思い出していく

かつて唐巣が己の限界を悟ったのは、若かりし頃に美智恵と出会った時だけである

出会った頃の美智恵の才能と可能性は、若い唐巣が嫉妬するほど素晴らしいものだったのだ

しかし最近の横島とその周辺は、美智恵とは全く違う可能性を唐巣に感じさせている

もしかしたら横島達の関係が、遠い未来の世界を変えるきっかけになるかもしれないと思ってしまう


「理由はともかく、長生きしたいって考えてるのはいい事だわ。 ピートの心労が減るしね」

ちょっときつい口調のタマモの返事に、唐巣は少し済まなそうな表情のまま笑みを浮かべるしか出来ない


一方タマモは未来についてはあえて何も答えなかった

基本的に横島の考えはタマモもよくわからない部分が多いし、下手に考えの一部を教えるよりは未来に夢見る現状のままにした方が唐巣は自分を労るだろうと思う


(本当は横島に過剰な期待をするのはやめて欲しいんだけどね)

GSを辞めた現在でも、周囲の横島への期待値はタマモの予想以上に高かった

令子の元を離れて本来の横島の良さが目立ち始めてる事も関係しているが、周囲の人々が無意識に横島に期待する現状をタマモはあまり歓迎してない

横島の良さや凄さを理解してるタマモゆえに、周囲の過剰な期待に警戒していく必要性を感じずには居られなかった


(横島を歴史の表舞台に出させる事は絶対に許さないわ)

横島と周囲の仲間の関係を決して壊す事はしないが、万が一誰かが横島を再び表舞台に出そうとするならそれは絶対阻止する

タマモは一人最悪の事態に備え戦っていた

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