サマーバケーション

商店街の祭りから数日後の定休日、すでに夏真っ盛りと言わんばかりにギラギラと照り付ける太陽の下で横島と魔鈴はある場所に来ていた


「懐かしいな……」

周辺が森に囲まれた別荘地の一角にあるその家を見ると、横島は感慨深げにつぶやく

横島がそこに来たのは数年ぶりだし、実際に滞在した時間は一日もない

それにも関わらず、込み上げて来る想いはあの日が昨日のように蘇ってくる


「あの後この別荘は所有者が何度か変わり、現在は都内の不動産屋が持っているようです」

いつもと違い髪をそのまま下ろしてワンピースを来ている魔鈴は、手元にある資料を読み上げて一息ついていた

ラフな私服姿の二人だが、別にデートではない


「訳あり物件の扱いなんだな…… 今回安く借りれたからいいんだけど微妙な気分だな」

そこはかつてアシュタロス一派が所持していた別荘である

そう……、横島がアシュタロスを倒すとルシオラに誓ったあの別荘だった


戦後アシュタロス一派が所持していた物件は世界中で発見されるが、ほどんどはさしたる問題もない為すぐに売り払われている

この別荘も同じで売り払われたのだが、魔族が所持していた物件と噂が広まったためになかなか売れずに所有者が二転三転していた

元々新しい物件でもないし観光地でもない別荘なだけに、人気が無かったのも影響しているが……


今回横島と魔鈴がここに来た理由は、パピリオが人界に来た時の旅行にここへ来ようと考えたためである


「でも、本当にいいんですか? お二人がつらい想いをしないといいのですが……」

旅行にこの別荘を利用したいと言い出したのは、もちろん横島だった

パピリオの旅行には思い出の場所でもあるこの場所に、ぜひ泊まらせてやりたいと思ったのである

しかし魔鈴としては微妙に判断に困る話だった

ルシオラやあの事件を横島が受け止めて進み始めたのは理解しているが、ベスパやパピリオはどうかなのかわからない

はたしてここに来る事がいい事なのか、魔鈴には判断出来ないのである


「そりゃあつらいと思うっすよ。 でもそれを避けちゃダメだと思うんです。 ちゃんと向き合って一緒に進みたい。 そう考えてます」

この場所に居ると、横島はあの日に戻ったような錯覚をしてしまいそうになる

きっとベスパとパピリオも言葉に出来ない想いが溢れるだろうが、だからこそ横島はここに来たいと考えていた

ルシオラは必ず復活させるという誓いを二人に改めて見せて、共に進んで行きたいという横島の願いである


「横島さん……」

強い眼差しで別荘を見つめる横島に、魔鈴はかける言葉が続かなかった

強く優しいその想いはきっと二人に伝わるだろうし、その決意は二人を癒す何よりの薬となるだろう

そう思うと魔鈴は反対を出来なかった


(しかし天竜童子殿下を始め多くの方が来られるのですが、いいのでしょうか?)

横島の想いは理解するが、半面で横島はこの旅行に友人や知人を積極的に誘っている

愛子達は元よりエミや唐巣や冥子まで誘っており、卒業パーティーに呼んだメンバーは一通り声をかけていたのだ

魔鈴はその真意をイマイチ理解出来ずにいた



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