終わりと始まり

その後、手早く片付けを済ませた横島達は魔鈴の家に移動していた


「変わったインテリアだな…」

まるで昔のヨーロッパ映画に出て来るような家に、大樹は少し驚いたように見渡している


「紅茶でよろしいですか? 朝食がまだならすぐに用意しますが…」

大樹と百合子に少し緊張気味の魔鈴

令子の事などでかなり親しくはなったが、恋人の親を家でもてなすのはやはり緊張するらしい


「ええ、紅茶でいいわ。 朝は済ませたから大丈夫よ」

百合子は笑顔で答えつつ、魔鈴のそんな姿を楽しんでいるようにも見える


「それで、二人共何しに来たんだ? と言うか、なんで雪之丞と一緒なんだよ…」

少し迷惑そうに両親を睨む横島に、大樹は意味ありげな笑顔を見せた


「馬鹿息子があんまりだらし無いから、来てやったんじゃないか」

ニヤニヤと真剣に話すことをしない大樹を、百合子は軽く睨みつけて横島を見る


「忠夫、母さん達はあんたの人生に口出しするつもりは無いわ。 でもね、親として許せないこともあるのよ… 美神美智恵さん、彼女だけは私達の手で片をつける必要があったの」

真剣な表情になり語りだした百合子に、横島とシロは驚きの表情を浮かべるが

タマモだけはある程度予想していたらしく、冷静であった


「どうぞ…」

微妙な空気の中、魔鈴の持って来た紅茶のいい匂いが辺りに漂う


「ほう… 流石はプロの料理人だな。 紅茶の入れ方も本格的だ」

大樹は一口紅茶を飲み、感心したように魔鈴を見る


「まだわからんか、忠夫?」

魔鈴が横島の隣に座ったので、大樹は魔鈴から横島に視線を移す


「まさか、美智恵さんを抑える為に来たのか?」

「……まだまだ甘いわね」

横島の答えに百合子は少し笑みを見せてつぶやく


「抑えに来たんじゃなく、抑えてたんでしょ?」

百合子に甘いと言われて、考え込む横島の思考を止めたのはタマモであった


「あら、タマモちゃんの方が賢いわね~」

タマモの答えに百合子は満足そうな笑みを見せる


「タマモ…?」

「少し考えればわかるでしょ。 美神美智恵が本気で動けば、私達では対応出来ないもの。 実際私とシロの身辺にも護衛が着いてたみたいだし、怪しい連中がうろついてる時もあったしね」

不思議そうに説明を求める視線を送るシロに、タマモは苦笑いを浮かべて話ていた


「気付いてたのか?」

タマモの話に驚いたのは護衛していた雪之丞である

雪之丞としては、タマモやシロに知られる分には構わないのだが、令子には知られる訳にはいかないためかなり慎重に行動していたのだ


「まあね。 私は金毛白面九尾の妖狐よ。 身辺には常に気を使ってるわ。 それに、美智恵の妨害は思ってたより少なかった。 彼女の性格なら、魔鈴さんに対してもっと妨害があっても不思議じゃないもの」

タマモの中では、すでに全てが繋がっている

いろいろ嗅ぎ回っていた割には妨害が少ないと感じていた

そして美智恵が本気で横島と魔鈴を引き離そうとすれば、自分達が不利なのも理解している


そんな状況を結果的に見ると、何故か事態は自分達に有利に進んでいたのだ

その理由が百合子と大樹だとタマモは悟っていた


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