その後タマモがサラサラと下書きしたデザインを、横島が忠実に再現していく

二人とも鼻歌雑じりに気楽に作業をしていくが、周りで見ている魔鈴達は半ば驚きながら見つめていた


「二人とも器用なんですね」

「先生もタマモも凄いでござるな」

まるで落書きを楽しむかのようなタマモと塗り絵を楽しむかのような横島の二人の軽い調子とは対照的に、看板は見事に出来上がってしまう

どうもイメージは魔鈴の店の外観に合わせたらしく、祭りの屋台という感じではなく斬新な屋台というイメージにはピッタリかもしれない


「そうか？　魔鈴さんやシロもすぐに出来ると思うぞ。　そんなに難しい事じゃないしな」

スプレーや筆を使い器用に看板を完成させた横島だが、彼の問題はデザインや構図の難しさであり何かに合わせて塗るだけなら簡単だと思ってるようだ


「自分が簡単だからって、人も簡単だと思っちゃダメよ。　横島だってそんな事を言われて嫌な思いしたでしょ？」

「えっ！？　確かに……、あんまり言われて嬉しい言葉じゃないかも」

相変わらず自分の事になると無理矢理でも下方修正をする横島を、タマモは呆れたように諭していく

横島は自分が出来るならば誰でも出来るだろうと安易に考えているが、相手によっては出来る自慢か出来ない事を馬鹿にしてると受け取られ兼ねないのだ

かつて学校で散々そんな扱いをされて来た横島なだけに、まさか自分がそんな意味に受け取られるかもしれない言葉を言っていたとは思いもしないようだった


「しかし、才能とはわからないものですね～」

タマモの言葉を聞きながらも、魔鈴は驚いたような表情をして見ている

タマモとシロが才能豊かなのは常々感じていたが、横島もまた普段目立たない才能が結構あったのだ

内面的問題が目立ち過ぎていた為、横島の長所が隠れているのは理解していたが無駄にしている才能もまた多いのだと改めて実感してしまう


（そういえば、横島さん細かい事が得意なんですよね……）

魔鈴が横島と一緒に暮らして常々感じていたのは、想像以上に出来る男だったという事だろう

店の雑用や掃除なども魔鈴は一から教えていたが、横島は飲み込みが早いし作業が丁寧なのでそれほど苦労はしなかった

大雑把で適当に見える性格とは裏腹で、やる事は繊細なのである


（もしかして料理人向きなのかもしれませんね。　味覚やら感性は微妙ですが……）

味覚や感性など問題がありそうなところもあるが、横島は鍛えれば案外いい料理人になるのではと魔鈴は思う

少なくともＧＳよりは向いてると確信していた



「んじゃ、後は屋台っぽく作るか」

塗り立ての看板を乾かしておいた横島は屋台を作る為に、買って来たプラスチックのパイプなどを組み合わせて屋台の輪郭を作っていく

天井や側面はビニール制の素材で作って、前面には腰までの高さに板を張ってその上からタマモが書いたピザやパスタの絵を張る

作業は全部で半日くらいで、その日の夜には異界の魔鈴宅の前に屋台モドキが完成していた


「半日でこれほど作るとは……」

その日の店の営業が終わった魔鈴は、少し目を離した隙に完成した屋台を見て驚きのあまり言葉が出なかった


（非常識と言われる訳が少しわかった気がします）

馬鹿と天才は紙一重とはよく聞くが、横島のやる事が常人の考えの上を行く事が原因なのだろうと魔鈴は改めて実感していた