その頃、美神事務所では令子が目の前の書類を放置して考え込んでいた

臨海学校の後におキヌの様子が微妙におかしいと感じた令子は、担任の鬼道に連絡して臨海学校で起きた異変を聞いていたのだ


「ネクロマンサーの能力が不安定か……」

鬼道に言われたのはおキヌの精神の不安定さである

それは令子も感じており気をつけてはいたのだが、臨海学校ではネクロマンサーの笛にまで影響したかもしれないと説明されると令子は穏やかではない


（いっそＧＳを辞めさせた方が……）

一瞬おキヌにＧＳ以外の未来をと考える令子だが、それはおキヌが自分で決める事であり令子から口出しする事ではないのだ

それにおキヌの精神状態でＧＳになるのが危険なのはよく理解している令子だが、同時に今オカルトから逃げ出したらおキヌの心に一生消えない傷を残してしまうのも理解している


見た目は高校生だが、おキヌは３００年余りずっと幽霊だったのだ

令子が引き取る前までずっと独りで孤独だった事を考えると、普通の人間以上に精神的なケアが必要なのは令子も理解していた


（私はどうすれば……）

しかし令子自身はかつて母親を亡くしたと思った時から、心を閉ざして生きて来た人間である

傷付き悩むおキヌをどうフォローして導けばいいか、よくわからなかった


「とりあえずはネクロマンサーに偏った除霊は改めるべきね」

いろいろ悩む令子だがおキヌの師匠としては、ネクロマンサーに偏ったおキヌに普通のＧＳと同じような除霊スタイルを教える必要性を感じている

別にネクロマンサーを使わない訳でも捨てる訳でもないが、ネクロマンサー以外経験がないおキヌには様々な除霊方法を教える事が必要なのは明らかだった


「やっぱり上手く行かないものね」

令子自身は昔から弟子を取るつもりなどなかったし、これからもそんなつもりはない

他人に物を教えるのは面倒だし得意でないのは自覚している

おキヌは令子にとっては弟子ではないし、弟子などとは比べものにならないほど大切な存在なのだ

基本的に自由気ままで他人を振り回して来た令子だけに、人を育て導くのは簡単ではないようである



同じ頃オカルトＧメンでは、西条がストレスを抱えたような表情でタバコを加えていた

令子に告白してもうすぐ五ヶ月も過ぎるのに、未だに二人の関係は友達以上恋人未満である

キスどころか手を繋いだり肩を組む事すらも拒む令子に、不満を募らせていた

元々西条は女性に不自由しなかったし、肉体関係を持つのも早かったのだ

広く浅く女性関係を広げて生きて来た西条にとって、キスすらも拒まれるのは不愉快でしかない


（令子ちゃんの性格じゃ強引に関係を進めてもダメだろうしな。　それに下手に令子ちゃんを怒らせると先生が黙ってないだろうし……）

お兄ちゃんという立場を抜け出したのはいいが、今度は形式だけの恋人になってしまった事に西条は頭を悩ませる

加えて美智恵の存在も恋愛を限定して考えると、厄介でしかなかった

下手に令子を怒らせたり浮気したりすれば、間違いなく西条は身の破滅が待っているのだ

なまじ美智恵の恐ろしさを知るがゆえに、西条は妙な形で止まってしまった現状を動けないでいた