初夏の訪れは女子高生と共に……

ネクロマンサーの能力は対悪霊という点では絶大な威力を発揮するが、消費する霊力も激しい

一見すると笛を吹いてるだけだが、ネクロマンサーの笛で使用するのはやはりおキヌの霊力なのだ

効果範囲を広げれば、それだけで霊力の消費が激しくなる

かつての大霊団のように一カ所に集中すれば効果的に除霊出来るのだが、海岸から沖合の海まで広く悪霊が点在する今回はネクロマンサーだけで除霊するのは不可能だった


「弓と一文字は氷室を守るんや」

おキヌに続き鬼道は、かおりと魔理に作戦を教えて二人におキヌの周辺を守らせる事にしていた


(本来はこんなやり方嫌なんやけど……)

長期戦になるこの除霊でおキヌにネクロマンサーの笛を吹かせるのは、かなりの負担になる事を鬼道は気にしている

しかもおキヌは精神的影響から調子がいいとは言えない

守りに仲のいい友人であるかおりと魔理を配置したのも、おキヌの精神的負担を少しでも減らそうとする鬼道の苦肉の策だった

しかしここでおキヌに頑張ってもらわなくては、この除霊が失敗する可能性が高くなってしまうのだ


「いきます」

細長い布の袋に入れて首から下げていたネクロマンサーの袋を取り出し、おキヌは静かに笛を吹き始める


ピュリリリリッ……


独特のネクロマンサーの笛の音色が霊波に変わり、おキヌを中心とした周囲の悪霊達を操り成仏させていく

おキヌはそれを意図的に海岸だけに留めながら、海岸に居る悪霊の大半を一瞬で成仏させてしまう



「これは……」

そして同時に笛の音色は前線に居た魔鈴達にも届いていた

魔鈴がおキヌがネクロマンサーの笛を使うのを見たのはかつて一度だけ、出会った当初の令子との料理対決の時以来である


(なんて悲しい音色なの……)

しかし今日聞こえるネクロマンサーの音色は、とても悲しくせつない音色をしてるように魔鈴は感じてしまう


(ネクロマンサーは心で霊達と向き合うから、おキヌちゃんの心の苦しみも伝わってしまうんだわ)

ネクロマンサーの笛は霊を思いやる心や理解する心により使える道具である

笛という媒介を通して霊とおキヌが心を通わせて成仏させているのだから、ネクロマンサーの笛はおキヌの心の中に潜む個人的な悲しみや苦しみの一部を表してしまうようだった


おキヌの悲しみや苦しみに魔鈴は胸の奥がズキンと痛む気がする

悲しみや苦しみの原因は言わずと知れた横島の問題だろう


(今なら少しは気持ちがわかる気がしますね)

横島という存在の大きさとそれを失った者の悲しみや苦しみは、並大抵でないと魔鈴は理解している

魔鈴自身も今横島が居なくなれば、おキヌと同じように悲しみや苦しみが待っているのを理解しているのだから


(何故……、横島さんの悲しみや苦しみを理解しようとしなかったのでしょうか?)

しかし魔鈴は横島の気持ちも十分理解していた

今のおキヌよりもずっと悲しみ苦しんでいた横島を見なかったのは、他ならぬおキヌ自身なのだ

霊達を思いやる心があるはずのおキヌが、何故横島の心を理解しようとしなかったのか……

魔鈴はそれが不思議で仕方なかった


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