卒業の意味

さて、六道女学院の卒業式では令子がOB代表として挨拶をしていた

特に物珍しい話では無くありふれた挨拶だったが、生徒達は目を輝かせて令子の話を食い入るように聞いている


強く美しく優しい

そんな完璧な女神のようなイメージで崇拝される令子の心の中は、見た目の笑顔とは裏腹であった


以前はそんな視線が、令子のプライドを刺激して優越感を味わっていたのだが、今は逆に酷く不快な物に感じる

理由は本人もわからないが、他人から注がれる熱い視線が嫌でしょうがない


そんな時令子の視線に入ったのは、浮かない表情で自分を見つめるおキヌの姿である

(おキヌちゃん…)

一瞬おキヌと目が合った令子は、何故か心が少し軽くなるような気がした


かつて横島が本当の自分と、道化を演じる自分の狭間で苦しみストレスを抱えたように

令子もまた本当の自分とは違い過ぎる、英雄美神令子にストレスを感じ始めている


他人から一方的に決め付けられ、造られた英雄としての美神令子像

令子は今までそれを上手く利用して、好きなお金を稼ぎまくってきた


元々相場より数段高いと言われる美神事務所の除霊料金

それを更に割り増し料金の請求や除霊時の被害のなすりつけなど、横暴とも言える行為を平気で行って来た

しかし英雄美神令子のブランドだからと、ほとんどの客は渋々ながらも納得して帰る

そんな風に自分の評価や見た目を最大限利用して、令子は今までしたたかに生きて来たのだ


しかし…

今の令子にはそれがストレスになっている

意味のわからない苛立ちや、たまに抑え切れなくなる感情を制御するのが精一杯なのだ


前と同じように生きようとすればするほど、令子の心は歪み悲鳴をあげていき

まるで蟻地獄に堕ちたように、もがけばもがくほど苦しんでゆく


令子は自分にとっていかに横島が重要だったかを、今だ気が付いて無い

いや、認めたくないだけかもしれないが…



そんな令子の姿を見て、内心の変化に気が付いている者も居る

おキヌはもちろんだが、冥菜や冥子も気が付いていた

もっとも事情を知らない冥子は、令子が元気が無いとしか思って無いが…


そして、美智恵と西条も同じく令子の変化に気が付いていた


(令子…)

娘の悩みや苦しみを察するも、現状では美智恵もどうしようも無い

過去を乗り越え、再び立ち上がって強く生きて欲しいと強く願っていた


(令子ちゃんは横島君の事をまだ引きずってるようだな…)

かなり自分に有利な展開に西条は内心ほくそ笑む

邪魔者が居なくなった今、自分の障害は無いと思っているのだ


(後は僕が彼女の心の傷を癒してやれば完璧だ)

よくある展開を想像して、思わず笑みが浮かびそうになるのを西条は必死に抑えて、令子を見つめていた



そしてその後も長々と続いた卒業式は、横島達の学校よりかなり時間がかかって終わる


卒業式後もたくさんの人に囲まれる令子だったが、笑顔を作り言葉少なく会場を後にして行った


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