初夏の訪れは女子高生と共に……

それから時間が過ぎて西の空が赤く染まる頃、横島達は現地の駅に到着していた

田舎なため乗り換えに時間がかかり、予想より遅れた到着である


「観光地なんだな~」

田舎らしい古びた駅舎を出ると、観光案内の看板などが目立つ普通の町並みだった

有名ではないが温泉も少しあるらしく、海と温泉を売り物にした観光地らしい


「海の匂いがするでござるな~」

楽しそうにキョロキョロとするシロの隣で、タマモは新鮮さと懐かしさの入り混じったような複雑な感覚だった

東京に住んで居るため遠くから海を見た事はあるが、海の匂いを感じるほど近付いた事はない

しかし懐かしさをを感じるのは、前世の記憶を僅かだが持ってるためだろう


「とりあえず海に行ってみるか? 確か除霊は8時頃からだったはずだし、一回海を見た後に軽く夕飯にしよう」

見知らぬ街はタマモとシロのみならず、横島にとっても新鮮だった

高校時代は貧乏のどん底だっただけに、除霊が絡まない遠出は久しぶりである


街には浴衣を着た観光客も少しは居るが、現地の学生達の方が多い

ちょうど中高生の帰宅時間と重なったために、駅前は結構賑やかだった



「近くでみると凄いわねー」

駅から10分ほど歩くと海岸に到着する

海岸自体はテレビで何回も見てるが初めて生で見ると感動するらしく、タマモは目を輝かせて海を見つめていた

静かな海岸には波の音だけが響き渡り、東京とはまるで別世界のようである

本来は森という自然に生きるタマモとシロには、東京のような都会よりも海の方が合うのかもしれない


(あの日もこんな感じだったな……)

静かな海と反対の山側に夕日が沈むその場所は、横島にあの日約束をした場所をふと思い出させてしまう


《一緒に逃げよう!》

あの時の言葉は勢いで言ったが、横島は本気だった


(もしもあの時……)

横島はそこで考えるのを止める

歴史にもしはないと思っているし、ルシオラや魔鈴に前を向き進むと約束したのだからそれ以上の考えは無用だった


「凄い数の悪霊でござるな、確かに強くは感じないでござるが大丈夫でござろうか?」

一方シロは遠く沖合にある結界の付近に溜まっている悪霊を見ていた

その数は今まで美神事務所で見た一回の悪霊の数と比べても段違いであり、おキヌ達で大丈夫なのか少し不安なようである


「海中にもかなり低級妖怪が居るようね。 理性を持たない妖怪は厄介だと思うわ」

シロの言葉で遠くを見つめたタマモは、海中に居る多数の妖怪に気が付いていた

理性や自我があるような力は感じないが、その分説得も出来ないし力の差があっても理解しない

結局戦うしかない相手なのだが、人間の霊力はたかが知れている

事前の資料よりも数や規模が大きい事に少し不安を感じていた


「神父やエミさん達も居るし大丈夫だろ。 俺達は今のうちに飯にしようぜ」

タマモとシロが不安を感じる事は少し気になる横島だが、魔鈴達に加え唐巣やエミが加われば大丈夫だと考えている

三人は日が暮れる前に軽く夕飯を済ませるために海岸を後にしていく


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