長々と続く来賓や関係者の挨拶を真剣に聞く生徒達

一文字魔理などの一部の生徒は嫌そうな顔をしてるが、それは少数だろう


そんな中、おキヌは心ここにあらずと言った感じであった

特別落ち込んでも無いが、どこか上の空なのだ


（横島さんの卒業式始まったかな…）

出来るだけ考えないようにはしているが、やはり同じ日に卒業式の横島を思い出してしまう

３年になってからはしっかり学校に通ったが、出席日数やテストで留年するかしないかでぎりぎりだった横島を思い出すと少し懐かしい思いであった


（ずっと続くと思ってたのにな…）

令子が居て横島が居て自分が居る、そんな懐かしく楽しい日々

まさかこんな形で終わるとは夢にも思わなかった


おキヌはやはり気が付いて無い

自分が楽しく幸せだったかつての事務所の日常が、横島も同じく幸せだったとは限らないことを…


満足に食事も食べれないほど貧乏で、高校生活も無いに等しい

もちろん友達と遊んだりなどはほとんど無い

あるのは令子の色香に惑わされて、危険と苦労の連続のバイトだけだった
　
　
そんな横島の苦労や気持ちをおキヌは考えて無い

同じ高校生にも関わらず、おキヌの場合は学校もしっかり通わせてもらってるし、給料も横島とは比較にならない

普通に学校生活を楽しみ友達と遊ぶ、そんな生活を送るおキヌに横島の気持ちは理解出来ないだろう



おキヌにとって、そんな横島が当たり前なのだろう

横島だからね

横島だから仕方ない

そんな横島を奇人変人扱いする令子や周りの大人と同じ目で、おキヌも見ていたのだった


一方おキヌが上の空で考え込む姿を、かおりは横目で心配そうに見つめている


（やはり、あの男のことを考えてるんでしょうね…）

ここ数日、横島の情報を集めたがイマイチ状況が掴めない

かおりは新たな決意を固めておキヌを見つめている



六道女学院の長い卒業式がまだまだ続く中、横島達の卒業式は終わりに近付いていた

横島に続き緊張でガチガチのピートや、緊張と卒業の喜びで不思議な表情のタイガー

そして誰よりも嬉しそうな表情の、机を背負った愛子が卒業証書を受け取った


その後卒業式は、そのままスムーズに進み予定通り終わる

そして教室に戻った横島達は、みんな卒業式の緊張から解放されて笑顔で喜びを分かち合っていた


「横島君、ピート君、タイガー君。　本当にありがとうね。　みんなのおかげで本当に楽しかった…」

卒業の嬉しさと寂しさで感極まった表情の愛子は、うっすら涙を浮かべている


「こちらこそ、ありがとうございました。　愛子さんには随分助けられましたよ」

ようやく緊張が解けたピートは、笑顔で愛子に言葉をかけた

吸血鬼の自分がここまで平和な学校生活を送れたのは、先にクラスに馴染んでいた愛子の存在が非常に大きいと感謝しているのだ


「お礼を言わなきゃならないのはアッシの方ですケン。　ありがとうございました」

ピートとは違うが、女性恐怖症の性格や精神感応のコントロールが利かずセクハラをするなど、お世辞にも幸せな人生だったとは言えないタイガー

彼もこの学校に通った平和な時間は非常に幸せであり楽しかった


クラスメートみんなが、卒業を喜び別れをおしんでゆく