初夏の訪れは女子高生と共に……

さて講堂の舞台に魔鈴が現れると多くの生徒がざわめく

魔鈴の顔はGS協会の広報紙やアシュタロス関連のニュースで見ているが、生では見た事のない生徒が多い

まあレストランの客として来た事のある生徒は生で顔を見た事があるのだろうが、大半の生徒は始めてだった


(やはり若いですね)

一流のGSに対する憧れや敬意以外にも、有名人に対するようなミーハーな声もあり魔鈴は若干戸惑ってしまう

そんな生徒達だが魔鈴が講義を始めると、驚くほど静かになり真剣に聞き始める


(あれが……、魔鈴……さん?)

空港以来始めて魔鈴をまともに見たおキヌは、その変わりように驚きを隠せない

別人とまでは言わないが、纏う雰囲気や表情などがおキヌの知る魔鈴とはまるで違っている

以前から優しさはあったが、どこかで人を寄せつけないような孤独感が僅かに見え隠れしていたがそれが全く無いのだ



一方魔鈴の講義内容は自身の除霊の体験談を語っていたが、内容はごくごく小さな依頼だけを語っていた

一流どころか一般のGSでさえ見向きもしないほどの軽い霊障を中心に、その依頼人の内情や苦しみ

そして退治される側の事情や苦しみなど細かな裏側を語っていく


アシュタロス戦の英雄の一人である魔鈴の地味な講義の内容にガッカリしてる生徒も多数居たが、実際に生徒達は始めて聞く話ばかりである

特別講師として来るGSの大半は、他の特別講師や六道女学院の教師が教えないような難しい講義や厳しい体験談を話す事が多い

限られた時間で若い霊能者達に厳しい現実を伝えるには有効だし必要なんだろうが、魔鈴はそれとは逆の考え方で講義していた

冥菜との契約時に他の特別講師の内容や傾向を聞いた魔鈴は、あえて誰も語らないような簡単な事件を掘り下げて語る事にしたようだ


「どんな小さな事件でも人の命や人生がかかってます。 そして除霊される側もまた同じ命です。 私としてはその基本を、皆さんに忘れないで欲しいと思ってます」

話が終盤に差し掛かった頃、生徒達は複雑そうな表情のまま聞いている

魔鈴としては出来るだけ解りやすくかみ砕いて語っているが、内容は難しいモノだった

何かを否定しない変わりに、何も肯定しないのだ

小さな事件でも依頼人は苦しんでるし、人生がかかってる事がある

一方で除霊される側も苦しみや仕方ない事情もあるなど、どちらが善悪などわからない体験談を中心に話していたのだ


そんな魔鈴の講義内容はちゃんと聞いて考える生徒にとっては、他の特別講師の内容よりも厳しく難しいものだった

他の特別講師は答えのわかっている問題を出して正しい答えに導くが、魔鈴はあえて答えの出ない問題を出して個人個人に考えるように仕向けたのである

現実の世界では解りやすい答えなど出ないし、特にGSは何かわからないモノを相手にするのだ

安易な答えや価値観でGSにならないで欲しいと考える魔鈴の願いから、こんな方法をとったようである

2/32ページ
スキ