梅雨の終わり

「金銭の問題は怖いですからね」

魔理の言葉にかおりは僅かに頷いていた

かおり自身は金銭で苦労した事はないが、実家は寺であり葬式などもある

通夜や葬式の前後に、故人の兄弟や親類が財産でもめてたなどの話は比較的よく耳にしていた

バイトはあまり詳しくないが、横島とおキヌの待遇や給料の違いなどがいい方向に働いてないのは確かだと感じる


「で、どうする? 私はとりあえず魔鈴さんと横島さんに謝るよ。 騒いだ事だけでも謝らないと」

いろいろ話したが結局魔理は、横島とおキヌの問題と分けて謝罪したいと考えていた

どこかでケジメをつけないとダメだし、最低限パーティーをぶち壊しにした件は魔鈴や横島に謝るのが先だろうと思う

横島とおキヌの関係に中途半端に口出しした件は、問題の難しさから魔理では判断出来ないのである

後々おキヌに恨まれるかもしれないが現状でおキヌに横島の真実を第三者が話すのはマズイし、出来れば和解してほしい

その為には未熟な自分が黙る事が一番だと考えているようだ


「……私も行きます。 あの時の行動は間違っても正しくはなかったですし」

魔理の問い掛けにかおりは、迷いながらも自分も行くと決める

雪之丞の件もあり正直言うと気が重いが、魔理が謝りに行く以上自分が行かないと後々面倒になりそうだった

雪之丞に対して会いたくないような会うのが怖いような感情があるが、最低限のケジメが必要なのは理解している


この辺りの対応や考えの違いは、やはりタイガーとの関係を戻した魔理と雪之丞と自然消滅したままのかおりではまるで違っていた

魔理はタイガーの立場やメンツを考えると早期に魔鈴や横島に謝罪したいが、雪之丞に対して距離が空いたかおりはそれほどでもない

よくわからない横島とおキヌの関係を考えれば、下手に動いてまた問題になるのが怖かったとも言える

結局お嬢様育ちのかおりと社会のはみ出し者扱いの魔理では、考え方がまるで違うというのもあるが……

元々おキヌを挟んでなんとなく上手くいっていた二人なだけに、おキヌが居ないと微妙に価値観や考えが合わない事が多くなっているようだった


同じ頃、おキヌは公園のベンチで一人考え込んでいた


「魔鈴さんが来るのかぁ……」
魔鈴が特別講師として来ると聞いておキヌが最初に思ったのは、やはり会いたくないという気持ちである

一緒に横島も来るかもしれないと思うと、どうしていいかわからない


(仕方ないんだろうな)

元々六道女学院での魔鈴の知名度は高い方だった

レストランの経営とGSという異色の組み合わせもあったし、魔鈴の使い魔や魔法料理は開店当初から話題になっていたのだ

最近では雪之丞のGS試験で注目を集めたし、店員に人狼の少女が居るのも話題になってるのを噂で聞いている

生徒の中には今まで特別講師として来ない事に疑問の声さえ上がっていたほど、魔鈴に対する人気が高い


(強くて真っすぐで優しい人だったもんね)

魔鈴と出会った頃を思い出し始めるおキヌは、かつて令子と正面から対立したほどの精神的強さを持つ魔鈴を思い出していた

38/42ページ
スキ