卒業の意味

開始時刻が間近に迫ると卒業式の会場に六道理事長と冥子、そして冥子に引っ付かれた令子が現れる

本来来賓である令子だが、冥子に連れられて六道家関係者席に座らされてしまう

この行動に冥子自身には他意は無いが、裏では娘を上手く誘導する冥菜の存在があった


とりたてて、特別なことをした訳では無い

ただ、『せっかくだから、令子ちゃんと一緒に座っていいわよ~』と娘思いの母親として話しただけである

無論普段なかなか令子に相手にされない冥子は、冥菜の話に喜んで従っただけだ


しかしそんな六道家と令子の親密な姿は、業界関係者に六道家の力を強く印象付ける結果になる

ある意味六道女学院の卒業式は、六道家の力を業界に見せ付けて誇示するための絶好の機会となっていた


「冥子… もうちょっと離れてよ。 卒業式なのよ?」

母親に注意されているので式神は出してないが、楽しそうに腕に絡み付く冥子に令子はため息をはく


令子の場合は冥菜の意図を薄々感じてはいるものの、六道家に逆らおうと言う気持ちは無い

現世利益第一と言う令子の考え方によるものではあるが、令子にとっても六道家とは親密になっておいて損は無いのである

この辺りが美智恵と令子の大きな違いであり、令子は必要以上に権力を自分で持ちたいとは思わないのだ

冥子のプッツンには迷惑しているが、六道家の威光の影で随分稼いだのも事実である


令子はあくまで自由気ままに、好きなお金を稼ぎたいのだ

従って煩わしい権力争いなどにはあまり興味が無い



そんな令子の姿を内心苦々しく思っていたのは美智恵であった

(あのバカ…)

令子と冥子の姿は離れた場所から見ると、仲がいいように見える

六道家に必要以上に利用される娘の姿に美智恵は面白くない


だが彼女とて、別に美神家が六道家にとって変わろうとは思ってない

現在の日本で六道家を追い落とすのは限りなく不可能に近い

ただ六道家を追い落とすのは不可能でも、六道家の地位まで美神家が上がることは可能である

美智恵は、美神家を六道家と対等に付き合える家柄にしたいのだ


まあ、そんな野望を持つ者は美智恵に限ったことでは無い

古くから伝統ある霊能の大家は衰退していく家柄を再興しようとするし

自分が初代になり霊能の大家にしようと考える者も居る

理由は様々ではあるが、六道家を目指し追い越そうと理想を燃やす者達は業界には多い


その辺りは他の一般社会と同じであり、人間の集団である以上当然の争いだろう



そして、それぞれの思惑とは別に卒業式は始まる

こちらは式の内容も横島の学校とは全く別次元であった

比べると、来賓や関係者の挨拶がかなり多いのだ


来賓や関係者もそれぞれ地位や立場があり、挨拶する人数や順番など調整が難しい

ちょっとした順番の違いや挨拶したくても出来なかった人などが、後々もめることも良くあるのだ

微妙な力関係や利益の上に成り立っている業界なだけに、その辺りは六道家としても最大限配慮して挨拶のメンバーや順番を決めていた

必然的に、来賓の挨拶が他校の卒業式より多いのは仕方ないことだろう



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