梅雨の終わり

横島達が去って静まり返った病室ではピートが心配そうに唐巣を見つめ、当の唐巣は複雑そうな表情で窓から外を見つめていた


(私も歳をとったものだね)

横島達の少しお節介な言葉と行動に、唐巣はふと懐かしさを感じてしまう

自分ではまだ大丈夫だと思っていた行動も、若い横島達から見れば無理をしているように見える

そんな横島達の言葉と行動は、唐巣にかつての若かりし頃の自分をふと思い出させていた


(横島君達に六道さんへの借りを作らせる訳にはいかないな)

この時、唐巣には全てバレていたようだ

まあ唐巣の体調や現状を知り六道家を動かせる人物など、数えるほどしかいない

六道冥菜が悪い人でないのは理解してるが、かと言って誰の頼みでもホイホイと聞く訳ではないのだ

美智恵や令子が自分の現状を知らない以上、横島達以外に六道家を動かせる人物はいないのは簡単に想像がつく


「ピート君、心配をかけて済まなかったね」

少し苦笑いにも見える穏やかな笑みを浮かべた唐巣に、ピートは少しホッとしたような表情を見せる

横島の問題が発覚して以来いろいろと思い詰めたような唐巣だったが、その重荷が少しだけ消えたような感じに見えていた



一方病室を後にした横島は微妙な表情で考え込んでいる


(やっぱりおふくろに頼んだのが間違いな気がするな)

間違った行動ではないのだろうが、強引過ぎたのだろうと横島は思う

唐巣の生活に問題があるのは理解してるが、食料の差し入れなどもっとソフトな感じで支援する方がいいと考えていたようだ


「また一人で悩んでるの? あんまり一人で悩むと横島もそのうち神父みたいな頭になるわよ」

「先生の頭が唐巣殿みたいに……」

考え込んでる横島をからかうようにニヤニヤと言葉をかけたタマモに、シロはその姿を想像したのか顔が真っ青にする


「なんで俺がたまに考え事してるだけで、みんな馬鹿にするんだ?」

二人の様子に少し不機嫌そうに答える横島

実は高校の時に横島が真面目に勉強したり考え事をしたりすれば、よく似たような形のからかわれ方をされたらしい


「あら、私は馬鹿にしてないわよ。 一人で考えるなって言ってるの。 どうせ神父の事考えてたんでしょうけど、私はあれくらいでちょうどいいと思うわ」

からかうような表情を一変させて真剣になったタマモは、あれくらいしないと意味がないだろうと言う

当たり障りのない支援や言葉では、唐巣は何も変わらないとタマモは感じていた

お世辞にも器用な生き方が出来るタイプには見えないだけに、あれくらいきついやり方がちょうどいいと考えてるようである


「そうかな~ もっとソフトでいい方法があると思うんだが……」

基本的な考え方の違いだろう

横島はもっとソフトな路線がいい気がしてならない

それに高校時代に百合子に追い詰められてぎりぎりの生活をしただけに、どうしても自分の母親にいいイメージがなかった


「難しい判断ですね。 当面は様子を見るしかないと思います」

今回の行動がよかったのか悪かったのか、現状では魔鈴には判断が出来ない

まあピート一人では大変なのは明らかだし、ここまで関与した以上当面様子を見るしかないと考えているようだ


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