梅雨の終わり

「その件に関しては私の一存では決められません」

一応筋が通っている冥菜の頼みに、百合子はこの場での判断を避けた

魔鈴の仕事に関しては判断するのは魔鈴だし、それに六道家が誠意を見せているのに百合子から敵対するような態度を取ることは出来ない

オカルト業界に多大な影響力を持つ六道家と敵対する事だけは、百合子としても避けたいのだ


「魔鈴ちゃんに聞いてみてね~」

百合子の答えに冥菜はニコニコと笑顔で答える

元々この場で返事がもらえるなど思ってないし、ダメならダメで構わないのだ

生徒達のアンケートで最近魔鈴の名前が上位に上がっているため交渉はしたが、何がなんでも魔鈴でなければならないとは考えてない

基本的に六道女学院の特別講師は志望者が多いのだ

GS業界のエリートの集まりであり親族にも業界の関係者が多い六道女学院の特別講師は、GS達にとって名前を売るいい機会となっている

将来のGS達と知り合う機会は貴重だし、彼女達を通して親族などのGSと繋がりを持てる事もあった

そして六道女学院での特別講師の肩書はGSとしても名誉であり箔が付く

六道家を毛嫌いする者達を除けば、特別講師を頼まれて断る人間は居ないだろう


「今回はありがとうございました」

魔鈴の特別講師の問題を棚上げにした百合子は、その日はそのまま帰っていく



一方冥菜が帰った唐巣の病室には、横島達がお見舞いに訪れていた

「だいぶ顔色がよくなったみたいっすね」

「おかげさまでもう大丈夫だよ」

数日の入院でだいぶ顔色や体調がよくなった唐巣に、横島はホッとしたように笑顔を見せる

倒れるのはいつもの事とはいえ、診断結果を聞いた後だけに不安もあったようだ


「どうかしましたか?」

元気そうな割に浮かない表情の唐巣に魔鈴は少し心配そうに尋ねる

また何か無理をするのではと疑っているのだ


「いや……、さっき六道さんが来てたのでね」

その言葉に横島と魔鈴はなんとも言えない表情をする


(おばさんどんな手段を使ったんだ?)

横島は唐巣の様子を見て、先日の唐巣が倒れた日の夜を思い出していく



魔鈴が百合子に相談した後、魔鈴はピートを呼んで横島達と唐巣の事を話し合っていた


「おふくろに頼るのは止めた方がいいと思うが……」

百合子に相談をした結果、唐巣を諭せる六道家に頼んで一定の歯止めをかける方法がある聞いた魔鈴は、その事をどうするか横島やピートに相談していた

ピートが考え込む中、横島は百合子の考えでの行動は少し否定的である

タマモの保護の件が百合子のおかげなのは自覚しているが、百合子の行動が過激過ぎる時があるのを横島はよく理解していた


「私としては少しくらい強引でも、神父にはちょうどいいと思います。 何が神父をあそこまで駆り立てるのかわかりませんが、常軌を逸してる行動に見えますから……」

一番唐巣との関係が薄くよく知らない魔鈴だが、一般的価値観から見れば唐巣の行動は常軌を逸脱した行動に見える

世のため人のためと言う価値観を一番理解してるのは、魔女としての誇りを持つ魔鈴だろう

しかしそんな魔鈴だからこそ、自分を疎かにしている唐巣を見過ごせなかった

人を助けるには方法はいくらでもあるのだ

唐巣のやり方が正しいとは魔鈴には思えなかった


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