梅雨の終わり

「唐巣神父と言う方の行動は立派だと思います。 しかし自己満でしかない面もある気がします。 唐巣神父と言う方を止めてくれませんか?」

単刀直入に頭を下げる百合子に、冥菜は少し驚きの表情を浮かべる

直接会いに来たのだから何かしらの相談事があったのは理解していたが、まさか唐巣を止めて欲しいと言われるとは思わなかった

己の人生を賭けて人々を救っている唐巣を知る人はみんな立派だと言うが、基本的にそれだけである

唐巣は様々な業界関係者に相談されたり頼られたりするが、一方で唐巣を手助けする関係者は少ない

それは周りの人が勝手なのもあるが、唐巣自身も極力周りに助けを求めたりしないのも理由にある

そしてそれが唐巣の悪い面であり、自分の考えや志しを人に伝えようとはしないのだ

まあ令子の事もあり唐巣自身は弟子の育成に向いてないと考えてるのかもしれないが、見方によっては唐巣の自己満に見えなくもない

そんな唐巣を、直接面識のない百合子がわざわざ止めて欲しいと言うとは思わなかったようだ


「唐巣君も頑固なのよね~ GS協会でも以前から問題になってたのよ~」

実は唐巣のギリギリの生活と除霊活動は、以前から少し問題視されていた

まあ悪い事ではないし批判されてる訳ではないが、知名度もあり業界内外で信頼度も高い唐巣がしょっちゅう空腹や栄養失調で倒れる事には、行き過ぎだと言う声はかなり以前から上がっていたのである

年齢も若くない事からGS協会内部には、第一線から引いて業界全体を考える立場になって欲しいと願う関係者も少なくない

しかし唐巣はそんな声を断り、今もギリギリの生活を続けていたのだ


「まあいいわ~ いい機会だから、唐巣君をGS協会役員にするわ~ それで最低限の生活費は賄えるはずよ~」

少し考え込んだ冥菜だったが、百合子に対して唐巣をGS協会役員にする事を告げる

何故役員にするかと言えば、第三者が唐巣の生活支援などするのは簡単だが、極端な話をすると唐巣の場合は他の貧乏な人に分けてしまう可能性もあるのだ

自分を犠牲にする事を望む唐巣に自分を労る事をさせるには、ある程度立場や責任を与える方がいいと判断した結果だった

まあGS協会には唐巣への待望論もあり、協会役員に押す声が毎年のように上がっていた事もあるが……


さて話は戻って唐巣を協会役員にした二人だが、百合子は今回の謝礼について話を初めていた


「謝礼~? 今回は要らないわよ~」

謝礼をお金で済ませたい百合子だったが、冥菜は一切不要だと言う

結果的ではあるが待望論があった唐巣のGS協会役員への就任は、冥菜にとってもオカルト業界にとっても得るものが多い

普通に役員就任を依頼しても唐巣は断るだろうが、今回ならばピートや横島達がフォローしてくれるだろうから冥菜としては好都合だった

それに唐巣の生活環境の改善は、横島達だけでなく冥菜も以前から考えていたのだ

人望厚い唐巣の存在は、オカルト業界にとっても六道家にとっても必要な存在なのである


「しかし……」

六道家に仮を作りたくない百合子は、謝礼が不要だと言う冥菜にいい顔をしない


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