梅雨の終わり

「未来を……?」

めったに自分の考えを話さない冥菜らしくない言葉に、唐巣は不思議そうな表情で見つめる


「今の子達はみんな、令子ちゃんみたいなGSを目指してるわ~。 こんな時代だからこそ、唐巣君の考えや想いを多くの霊能者に伝えて残して行かなければならないと思うの~」

その言葉に唐巣は冥菜の真意がわからなかった

冥菜が完全に私利私欲で動く人間でないのは理解してるが、それほど未来を憂いてるとも思わない

それに日本のGSを宗教などと切り離して、純粋な職業として確立させたのは他ならぬ六道家なのだ

GSの商業化にはいろいろ問題も多いが、それでも昔のように宗教や特定の団体が絶大な権力を持つ頃よりはいいと言える

戦後社会の変化に対応出来なかったオカルト業界で、社会の変化に対応した数少ない霊能の大家が六道家なのだ


「何をお考えなのですか?」

「言葉の通りよ~ 私は令子ちゃんのようなGSも、唐巣君のようなGSも必要だと思うの~」

真意を尋ねる唐巣に冥菜は相変わらずの表情答える

しかし唐巣は、何故冥菜がこのタイミングで突然そんな話を持ち出すのかわからない


(何故このタイミングで緊急役員会を開いて、私を役員にする必要があるんだ?)

冥菜の言葉が100%嘘だとは思わないが、何か裏があるのはなんとなくわかる

しかし唐巣にはその真意が読めなかった


「とりあえず、役員の話はもう決まったからよろしくね~」

最後までマイペースな冥菜は、半ば強引に話を纏めて帰ってしまう

残された唐巣は強引な冥菜に断る事も出来ずに終わっていた



「どうでしたか?」

その後自宅に帰った冥菜を待っていたのは、なんと百合子だった


「唐巣君戸惑っていたわ~ でも大丈夫よ」

百合子の問い掛けにニコニコと答える冥菜だが、二人の間を流れる空気は相変わらず微妙である


「わざわざお手数をかけさせて、すいませんでした」

「別にいいのよ~ 唐巣君の行き過ぎた行動は私も気になってたもの~ それに、唐巣君の事を心配してる業界関係者は多いのよ~」

何やら意味ありげに唐巣の事を語る二人だが、事の始まりは二日前に遡る

魔鈴に唐巣の事を相談された百合子は、唐巣の無謀な生き方を止めれる人物として六道冥菜と接触していた

百合子としては六道家との接触は出来れば避けたいのだが、唐巣を止めれる人物が他に居なかったのである

なまじ聖職者として人々から信頼厚い唐巣なだけに、唐巣に対して意見出来る人物が六道冥菜以外には居なかったのだ

横島や魔鈴の関係者はみんな唐巣より年若く、唐巣に意見しても聞かない事は明らかである

まあ例外としては小竜姫という選択肢もない訳ではないが、総合的に判断すると唐巣を古くから知る冥菜が最適だろうと判断していたのだ



「唐巣君、また倒れたの~? 困った子ね~」

百合子から唐巣が倒れた事やこのままでは唐巣の寿命が縮む事もある事など説明された冥菜だが、少し苦笑いする程度である

まあ唐巣が倒れる事は珍しくもないし、誰かが意見しても聞かないのだから飽きれてる感じもあるようだ


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